壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

サラの鍵 タチアナ・ド・ロネ

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サラの鍵 タチアナ・ド・ロネ
高見浩訳 新潮クレストブックス 2010年 2300円

1942年7月、ヴィシー政権下のパリで一万人を越えるユダヤ人の一斉検挙が行われました。ヴェロドローム・ディヴェール(ヴェルディヴ)という屋内競技場に連行監禁され、その後アウシュヴィッツに送られたのですが、その中には四千人を越える子供たちがいたそうです。なにより衝撃的なのはこの一斉検挙を立案、実行したのがフランス警察だったということでした。

60年前のパリ、何も知らない十歳の少女サラは、両親とともにヴェルディヴに連行される直前に、四歳の弟を戸棚に隠して鍵をかけ、後で必ず出してあげると約束しました。そして現代のパリ、フランス人と結婚したアメリカ人ジャーナリストのジュリアは、ナチ占領下でのユダヤ人迫害事件の取材を命じられ、多くのフランス人の記憶から消し去られているヴェルディヴ事件を追いかける事になります。

サラとジュリアの物語が独立に進行していくうちに、二つの物語はじりじりと接近し、とうとう衝撃的な出会いを果たします。・・・そして、後半部分が単なる謎解きに終わらないのは、ジュリアが自身の人生をかけて真実を追いかけたからです。「自分が何も知らなかったことを誤りたい」というジュリアの言葉は説得力がありました。

真実を知るという事には痛みが伴います。サラの息子が母の本当の姿を知ったときにも、ジュリアの夫の家族が60年前の出来事を知ったときにも、誰もが直後には混乱して思考が停止するのだけれども、真実から目をそらさずに向き合おうと努力する人たちの姿は感動的でした。現実には、ジュリアの夫ベルトランのように真実から目をそむけてしまう人もたくさんいるのだろうけれど。

内容、構成ともに読み応えのあるお勧め本です。