海辺の王国 ロバート・ウェストール
徳間書店 1994年6月
1942年夏の英国で、ドイツ軍の空襲によって家族と家を失った12歳のハリーは、迷い犬ドンを道連れに北海に面した海辺を北に向かって放浪をはじめました。
親戚のおばさんの所には行きたくないし、避難所も嫌だ。死ぬまで歩き続けようとハリーは思った。
小銭でフィッシュ&チップスを買おうとしたのに嫌がらせを言う店主、干し草の中でやっと暖かい一夜を過ごしたのに猟銃を向ける農夫もいたけれど、見ず知らずの者に一夜の宿を提供してくれる親切な人にも出会いました。
一か所に長くいると、周りに不審に思われて警察に通報されてしまう。それを恐れてハリーはさらに北に向かう。
陸軍の砲台で一人の兵士に出会います。国にハリーと同年代の息子を残してきたアーチ―とハリーはとても親しくなり、不自由ながらも幸せな時を過ごしたのですが、また邪魔が入ります。
ハリーは聖なる島リンディスファーンに行って旅を終わらせようと決意する。『天路歴程』のように。でも聖なる島なんかではなかった。
命からがらの所をマーガトロイドさんに救われ、幸せな時間を過ごします。一人息子を戦争で失ったマーガトロイドさんとハリーは、お互いに失ったものを補完するように暮らし始めました。
正式な手続きをしにハリーの元の住所に向かおうとするマーガトロイドさんに向かってハリーは言った。「だけど後悔すると思うよ」 ハリーの言ったとおりになってしまった。
少年が世界に向かって踏み出し大人の善意や悪意に翻弄されて、それでも少しずつ大人の知恵をつけて生き延びていく様子にハラハラドキドキでした。でもハリーの成長と強い意志を感じますし、なにより著者の少年に対する慈しみの気持ちが文章のそこここに出てくるのです。
マーガトロイドさんが、十八歳の一人息子を戦争で失った著者ウェストールであることは明白ですが、最後の意外な展開はいったい何だったのでしょう。感動的な出会いになるだろうという予想はもちろん見事に外れ、逃げたと怒る父親と、家族に違和感を持つハリーは、この先どのように折り合っていくのか?という辛口の終わり方です。でも読後の感動をそこなわない、読み応えのある物語です。