壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

草祭 恒川光太郎

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草祭 恒川光太郎
新潮社 2008年 1500円

 

 「夜市」 「雷の季節の終わりに」 , 「秋の牢獄」に続く四作目にして、懐かしくて少し怖いという作風はいっそう洗練されてきました。現実世界と重なり合って存在している恒川さんの異世界。気持ちのバランスがふと崩れた時に、現実世界と異世界の境界が溶けて、自由に往還できるようになるのですね。

 

『美奥』という土地にまつわる5つの連作短編は、お互いにリンクしあっています。登場人物や道具立てが工夫され、最初と最後のエピソードがつながる構成が凝っていて、すっかり気に入ってしまいました。最後のエピソードで全体像が一気に見えてきた感じです。

 

『美奥』という土地は、異世界との接点の一つ。他にも入口や境界が、空間や時間を越えて存在しているのでしょうね。「風の古道」では異界は海の向こうにもあるようでしたし、次の作品にも期待しています。

 

カバーの絵も魅力的です。これは第五話の『朝の朧町』の風景でしょうか。ということは・・・図書館の本では全体が見られないので、イラストレーターの影山徹さんのところをメモしておきましょう。恒川さんご本人のブログもYahooにて発見。⇒ここです。



『けものはら』
小学校五年生のある日、僕と春は水路の奥にある不思議な野原を見たことがある。中学三年生の時、姿を消した春には何がおきたのか。
『屋根猩猩
高校生の美和は、同級生の女の子たちとうまくいかない。そんな時に出会ったのが屋根の上を駆け抜ける少年。
『くさのゆめがたり』
美奥という土地の伝説もしくは神話。山に生まれた身寄りのない少年は最も愛するものの再生を願った。
『天化の宿』
ゆうかという中学生の女の子(これ第二話に名前が出てますよね)は、森の中の古いトロッコ軌道を辿って古民家にたどり着いた。クトキのために行う天化とは何か。
『朝の朧町』
私(香奈枝)は長船さんのうちに同居している。あるとき誘われて「頭の中の想像の町」に行く。