壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

雷の季節の終わりに 恒川光太郎

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雷の季節の終わりに 恒川光太郎
角川書店 2006年 1500円

前作「夜市」でノスタルジック・ホラーに魅せられました。(ホラーといってもあまり怖くないです。これは重要)。

『穏(オン)』という異界の村には、第五の季節『神季』があります。冬の終わりに雷(神鳴り)が激しく轟く季節に、賢也の姉が姿を消しました。穏では忌み嫌われる「風わいわい」という物の怪に取憑かれた身寄りのない賢也は、夜の門番『闇番』の大渡さんと親しくなりました。ある事件をきっかけに逃げるようにして穏を逃げ出した賢也は、『風わいわい』とともに外の世界に向かいます。

前半は「夜市」や「風の古道」の世界を髣髴させます。雷の轟く海辺の『穏』は北国のようでもあり、石畳の道に樹木が生い茂る様子は南の島のようでもあります。地図に載っていない『穏』の雰囲気がとてもよく出ていましたね。『穏』と外の世界の間に存在する『世界渡り』の荒野は、中世世界のようです。

外の世界の茜が『穏』とどんな関わりを持つのかという謎が解けて、なるほど!と思いましたが、トバムネキという悪役の存在がちょっと中途半端でした。ナギヒサの顛末、穂高のこと、茜の友人の詩織など、もう少し書き込んで欲しかったし、最後は思っていたよりもずっとあっけない。

「夜市」や「風の古道」のような中篇か、いっそのこと、本書の三倍くらいの長編にして欲しいなんていうのは、欲張りな読者の勝手な感想ですね。あまりに厚い本は売れ筋じゃないし、おなかいっぱいになるよりもっと腹八分目のほうがいいかしら。次作「秋の牢獄」もそのうち読みます。たぶん図書館の予約も途切れているでしょう。