椿宿の辺りに 梨木果歩
未読である『f植物園の巣穴』の後日譚だという事は承知していたが,とりあえず読んだ。
現代人の異界の冒険譚といえばいいだろうか。冒険とはいっても大冒険ではなく,ちょっとした旅なのだが。化粧品会社の研究員である佐田山彦はネガティブで消極的な性格だが,自分の身体の痛みを通してあるきっかけで積極的な行動に出るようになった。鍼灸院の霊能者らしき亀子を伴って,今まで行ったこともない祖先の住んでいた土地――椿宿――に向かい,いろいろな不思議に出会って,祖先の謎の部分を知り,身体の痛みも薄らいでいく。
とりとめもなくどこに進むかわからない話なのだが,日常が非日常に滑り込んで,不思議で可笑しいので読み飽きない。古事記の世界に踏み込み,過去の自然災害と現代の環境整備の問題までつながっていく。屋敷の屋根裏にあったという「植物園の巣穴に入りて」という文書が出てきて,やはり『f植物園の巣穴』を先に読んでおくべきだったのかと思う。