壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

夜市 恒川光太郎

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夜市 恒川光太郎
角川書店 2005年 1200円

一人企画「新刊本を読む」は終了しました。図書館の新着図書コーナーで、一目見ただけで手当たりしだいに借りてきた残りの新刊本は、シリーズの途中だったり苦手なタイプの本だったりで、そのまま返却します。

この本は予約しておいた本です。小金井公園の桜からの連想で紹介してくださったのはめにいさんです。2005年の日本ホラー小説大賞受賞作の「夜市」と、「風の古道」の二編が納められています。

私たち人間の知らないところで、異界が広がっている、それも日常生活のすぐ隣に。その感覚がホラーではなくて、ファンタジーとして語られています。それもずいぶんとノスタルジックに。無駄のない簡潔な文章が、頭の中に映像を呼び覚まします。「夜市」の開かれている森も、「風の古道」が続く武蔵野の雑木林も、子供のころに見た風景のようです。

半世紀以上前の夜店は照明が暗くて、千尋が迷い込んだ油屋のある町のような賑わいはありませんでした。屋台の置かれた神社の周りの森は暗く踏み込んではいけない場所のようでした。1960年前後の武蔵野の雑木林は、お寺の裏庭から細い踏み分け道が続き、ひょっこりと人家の裏手に出たりと、ここに書かれている風景そのもの。懐かしい~~

子供のころに「夜市」で売ってしまった弟を買い戻した後の展開が意外でしたし、小金井公園から続く「風の古道」に再び戻った主人公の少年の体験も不思議感たっぷり。でも『妖し』達が行きかう目に見えない街道を永久放浪者となって旅をするレンや、カズキのさらに先の物語はどう続くのでしょうか。なかなか妄想が湧いてきません。

この少年のように、桜の季節に公園で迷子になって「風の古道」をのぞいてみたいような・・。まあこの年齢になるとこの道を歩く『妖し』に近いけど、気分はあくまで少年のままで・・。

うっすらと怖い恒川光太郎さんの世界は、あくまでもソフトホラーで、あっさりと上品な、女性好みの作品という感じです。(も、もちろん私も女ですからこういうのは好きです。次の作品も読んでみたいです。)「風の古道」は日本中に広がり、さらにこの異界は海をも越えているらしいのですが、時空を越えて歴史のかなたに繋がって濃厚な伝奇ロマンになると、もう別の話になってしまうし・・・。なんだか昔好きだった半村良の「産霊山秘録」とか思い出してしまった。まったく正反対の雰囲気なのにね。