壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

和算小説の楽しみ 鳴海 風

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和算小説の楽しみ 鳴海 風
岩波科学ライブラリー 2008年 1300円

江戸時代には広く庶民にまで親しまれたという和算を題材にした小説が、この頃人気だそうです。この本は、和算そのものの話ではなくて、和算を題材にした時代小説の紹介です。江戸時代の和算は数学的な内容は西洋に引けをとらないほど進んでいて、神社に掲げられた算額から庶民レベルにも広がり、さらに各流派が競って奥義や秘伝というものをもっていたそうで、小説の題材として魅力的です。

著者は企業に勤める研究者でありかつ時代小説家だそうで、テーマを和算に絞って時代小説を執筆しようと考えた時、和算に関わる史実調査と先行研究を行ったそうです。つまり和算をテーマにした時代小説にはどんなものがあるのか、かなり徹底して調査したようです。

テーマにそって小説の内容が紹介され、約30冊の和算時代小説(著者の七冊の著作も含めて)が巻末に「和算小説一覧」としてまとめられています。また、その特徴を元に二次元平面のグラフに各小説をプロットしてあります。X軸は『数学の遊戯性⇒数学の専門性』、Y軸は『物語の面白さ⇒人間描写』でした。さらに将来の和算小説の可能性を論じていたりと、こういうまとめ方は、科学論文で言うところの『総説(review)』のような感じです。研究者ならではの視点なのでしょう。

第一象限にプロットされたのが例えば「算法少女」(遠藤寛子)。YAとして評判になり最近復刊された小説です。子供向きなのに数学の専門性もかなり高くて面白いそうです。第三象限にあるのは例えば著者の「美しき魔方陣」。これはエンターテイメント性の強い作品だそうです。どれも未読ですので、いつかそのうちに、と思います。