壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

匂いの人類学 鼻は知っている エイヴリー・ギルバート

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匂いの人類学 鼻は知っている エイヴリー・ギルバート
勅使河原まゆみ訳 ランダムハウス講談社 2009年 2000円

オルファクトグラム
匂いの帝王
匂い-その分子構造
匂いと香りの科学
香水-ある人殺しの物語-
匂いたつ官能の都
香りの愉しみ 匂いの秘密
これらは今までに読んだ、匂いや嗅覚に関するフィクションやノンフィクションですが、「匂い本」のコレクションをもう少し増やしたいと、新刊を探してみました。ランダムハウス講談社とは今まで相性が良くなかったのですが・・・これは面白い本でした。

著者は心理学者で嗅覚専門の認知科学者ですが、学術分野だけでなくフレグランス関連企業にも携わって多彩な活動をしているせいか、香水に料理にワインのテイスティングから、麻薬犬、匂いに対する民族間の偏見、文学における匂いや匂い付き映画まで、われわれの日常生活の匂いを実に幅広く議論しています。

各章に面白いエピソードがたくさんあり、でも文献がしっかりと引用されてフェアな手ごたえがありました。これまで我々がなんとなく信じていた通説がひっくり返されたり、笑わされたり、面白い本でした。随所に出てくるアメリカンジョークやポップカルチャーにはなじみのないものが多かったのですが、訳注でかなりフォローされていて、その点も読みやすかったと思います。

自然界における香りの擬態(第2章)も面白かったし、1950年代終わりのハリウッドで短い最盛期を迎えた<匂いつき映画>の盛衰にかかわった人たちの話は、ミルハウザーが描くような職人たちの世界でした(第8章)。また、「プルーストのふやけたマドレーヌ」と著者が表現する、偶像化されたプルーストの嗅覚記憶に対する辛口の批評はAha!体験でした(第10章)。

第1章 匂いの迷路 ・・・匂いの数とカテゴリー
第2章 匂い分子が支配する世界 ・・・匂いの化学分析
第3章 鼻がきく人たち ・・・無嗅覚症から超嗅覚まで
第4章 嗅覚の指紋 ・・・スニッフィング・メカニズム
第5章 味覚と嗅覚 ・・・料理と文化と匂いの進化
第6章 体に悪い匂い ・・・悪臭に襲われる人たち
第7章 嗅覚的想像力 ・・・匂いと嗅覚型芸術家
第8章 ハリウッドの精神物理学 ・・・匂いつき映画の盛衰
第9章 ショッピングモールのゾンビ ・・・匂いのマーケティング戦略
第10章 よみがえる記憶 ・・・プルーストのふやけたマドレーヌ
第11章 嗅覚ミュージアム ・・・匂いの絶滅危惧種
第12章 嗅覚の運命・・・嗅覚装置と嗅覚遺伝子