壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

排出する都市パリ アルフレッド・フランクラン

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排出する都市パリ アルフレッド・フランクラン
高橋清徳訳 悠書館 2007年 2200円

「泥・ごみ・汚臭と疫病の時代」という副題がありまして、『匂い』シリーズ(*下記)はとうとう『臭い』に行き着きました(笑)。「感染地図」で見たロンドンの下水事情からの連想でもあります。「ムギと王さま」を読んで満足したのでおとぎ話モードが突然終わりになりました。でもこんな本を読み始めるにあたっては、いちおう自分に対しても言い訳しておきます。

ルフレッド・フランクランがこの本を出版したのは1890年、百年以上もたって翻訳されています。12世紀から18世紀の、近代的な都市基盤が成立する前のパリを描写している歴史書ではありますが、出てくる事例は下水、ごみ、墓地、便所ばかりです。「過去の私的生活(全27巻)」の中の『衛生』に関する巻だそうです。他には「18世紀パリ市民の私生活―名高くも面白おかしい訴訟事件」(東京書籍)が一冊でているようです。

道路で豚を飼わないように、窓から○○○を捨てないように、ごみを道路に置かないようにと、何世紀にもわたって繰り返し禁止令が出されても庶民はなかなか動きません。「香水」で読んだ18世紀パリ下町もそうとうなものでしたが、ベルサイユ宮殿のトイレ事情だってどっこいどっこい。
中世から近世にかけての数百年開、パリの路上には人や勅物の糞尿があふれ、腐った食品のくずが散乱し、セーヌ川には屠殺された牛や豚の臓物や血が途切れることなく流れ込んだ。うっかり道の端を歩こうものなら、頭上から容赦なく屎尿がぶちまけられた。街は悪臭に満ち、それは王宮にまで及んだ。ひとたび疫病が発生するや、あっという問にパリを席巻し、数千数万の人々の命を奪った~汚損と汚臭に満ちていた時代のパリの生活空間を、第一次史料にもとづき、いきいきと再現!(表紙扉より)
「いきいきと再現!」して欲しくない場面ばかりでした(笑)。とくに貧者を収容する施療院の手術室の不潔さ、街中の墓地の移転などホラーまがいでした。『臭い』を深追いするのはやめにします。

パリの下水道は「レ・ミゼラブル」で有名ですが、これは19世紀はじめのこと。青空文庫「レ・ミゼラブル」を確かめたら、第五部第二編に「怪物の腸」という題がありました。「ああ無情」(抄訳翻案)は読んだことがありますが、「「レ・ミゼラブル」は未読でした。ビクトル・ユーゴーがパリの下水の歴史を滔々と述べるあたり、面白くて読みふけりました。

人間は生きている限り排泄し、多数の人間の総体としての都市はさらに巨大な排泄を行うわけで、私たちが日常には排泄物と同居しない衛生的環境を保っているように見えても、人間の排泄物は○○○ばかりではありません。二酸化炭素だって排泄物の一種なんです。呼気の二酸化炭素だけでなく、文化的衛生的環境を保つために多量の二酸化炭素という排泄物を垂れ流しています。

もし、二酸化炭素がすごく臭かったら、いっときも放置しておくわけにはいかないんですけれどね・・・。残念ながら、無臭です。