壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

匂いたつ官能の都 ラディカ・ジャ

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匂いたつ官能の都 ラディカ・ジャ
森田義信訳 扶桑社セレクト 2005年 1100円

「匂い」という感覚を通して描かれる、現代世界文学の最前線、仏ゲラン賞受賞作。人並みはずれて鋭敏な「匂い」の感覚を持ったインド系の女性リーラが、異国の都パリで体験する、もうひとつの「パリ」とは?スパイスの匂い、ワインの香り、薔薇の芳香、台所の悪臭、男性の体臭…。いま、世界で最もエスニックな都会であるパリを異邦人女性の嗅覚を通して描いて、世界十七か国に翻訳された鮮烈なデビュー作。ラヒリ『停電の夜に』に続くインド発の現代世界文学の最先端作品、ここに登場。

ジェースキントの「香水」を読んでいたときに教えていただいた本です。「原題の「Smell」は広がりのある印象なのに、「匂いたつ官能の都」ではずいぶんと限られたイメージになってしまいました。ちなみに官能小説ではありませんので、ご心配なく。

ケニア生まれのインド系女性リーラは、父親を亡くした後母親にも捨てられ、パリに住む叔父夫婦に預けられますが叔母に疎まれて家出しました。二度と叔父の家に戻ることはなく、不法滞在者として転々とし不安定な暮らしを送ります。

リーラは非常に鋭敏な嗅覚を持つので、料理や食料品に特別な才能を発揮して、仕事上の成功をおさめます。しかし敏感な嗅覚に振り回され、自己嫌悪のような形で自分自身の匂いを感じとってしまいます。それは、裏返せば異質なものを受け入れないフランス人社会に感じる戸惑いや憤りのようなものでもあるのでしょう。

フランス人たちには決して溶け込めずに常に疎外感を感じる様子が、「匂い」を通して表現されています。むせかえるような匂いの表現に圧倒されます。具体的なものの匂いというより、リーラの感情表現として「匂い」を使っているところが個性的です。