壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

香りの愉しみ、匂いの秘密 ルカ・トゥリン

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香りの愉しみ、匂いの秘密 ルカ・トゥリン
山下篤子訳 河出書房新社 2008年 1800円

「匂いの帝王」ルカ・トゥリンの匂いの分子振動説、今度はジャーナリストではなく本人による紹介です。分子振動説の是非はともかくとして、特異な嗅覚の持ち主ルカ・トゥリンの「匂いのランドスケープ」の章は面白い。匂いと化学構造の三次元マップを眺めている感じで、化学物質の構造と匂いにどんな関係があるのかが、生き生きと伝わってきます。

まるでソムリエがワインの味を表現するように、いやいやもっとアブナイ言葉で物質の匂いを表現し、香水に関する薀蓄も豊富で、製造中止になっている過去の香水の名品が多数登場。残念ながら、香水をほとんど知りません。県内に香りの博物館というのがあるので、今度行ってみようかしら。

「匂いの帝王」と内容が重なる部分が多いのですが、チャンドラ・バールが描いたアヤシサいっぱいのルカ・トゥリンとは異なり、ずいぶんと真摯な感じでした。匂いという感覚はもっとも客観的に表現しにくいものですから、化学構造の異なる物質が同じ匂いを持つのかどうかというような議論だけでは、形状説と振動説に決着がつくとは思えませんし、脳でどのような処理が行われているかについての議論はほとんどないのです。でも形状説がほぼ受け入れられている状況に有っても、自説を証明すべくがんばってます。