雁国の王と麒麟の物語。第一話で陽子が「景王」となったころには、十二国の中で最も裕福で安定した雁国でしたが、それより五百年前の出来事。延王 尚隆、延麒 六太は共に胎果(蓬莱の出身)で、この世界に連れ戻されて王位につきました。長らく王の不在で荒廃していた雁国を復興する過程で地方州に謀反の動きがあり、延麒がとらえられてしまいました。
遊び呆けて国政をないがしろにしているように見える延王ですが、かつて小松尚隆として瀬戸内の領主だった頃に戦に負けて国を失った経験から、王が国を守ることの大義とは何かをわきまえ、大局を見据えることのできる人物です。気ままに振舞っている六太だって、親に捨てられたことがあって幼い命を見過ごすことができません。
蓬莱と雁国の場面が交互に現れ、重層する物語の進行はとても巧みです。謀反を起こした斡由は初め正義の士として登場しますが、だんだんに化けの皮がはがれていくあたりもうまい。『正義を語る者が必ずしも正義の者ではない』ということを六太は身にしみて理解し、さらに延王に対する信頼を深めます。でもまたこの二人は軽口を叩きあいながら遊び呆けているようです。