壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

十二国記 華胥の幽夢 小野不由美

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十二国記シリーズ初の短編集にして、現在最後の既刊文庫本。単行本未収録の短編はまだあるけれど、あーあ、とうとう最後まで読んでしまいました。惜しかったけれど、でも満足しました。

一般に長いシリーズはマンネリになりがちだったり、途中でアイデアが枯渇してきたりと、不満足なこともあるものです。ところがこの『十二国記』は、次の作品を読むたびに好きになり、その時読み終えた作品が一番いいと感じられる、とても幸せなシリーズでした。

本作『華胥の幽夢』ではこれまでの長編で仄めかされていたエピソードがそれぞれの短編に仕立てられていて、シリーズをずっと読んできた読者に対する「ご褒美」みたいな五編です♪

「冬栄」
読んだばかりの「黄昏の岸 暁の天」で触れられていたエピソード。 登極して間もない泰王驍宗が泰麒を使節として漣国に使わしたときのこと。
ここでは幸せそうだった泰麒ですが、「黄昏の岸 暁の天」では、実は・・・という話があって、なかなかに複雑な思いで読みました。

「乗月」
「風の万里 黎明の空」の後日談というべきもの。圧政を敷いた芳王仲韃に対する謀反を起こし、芳国公主であった祥瓊を追いやった月渓に、景王陽子からの親書を持って青辛が訪れ、芳王仲韃に対する忠誠と謀反を起こした罪悪感に長らく悩んでいた月渓が、やっと前に進む。
渋いけれど、いい短編でした。

「書簡」
景王陽子と楽俊の手紙。 お互いに辛い立場に居るけれど、手紙ではちょっと強がってカッコつけてしまう二人。でも互いに充分、相手の事情を察していて、あえて辛いことを手紙に書かないところが、とっても素敵でした。

「華胥」
才国王砥尚は高い能力をかわれ、周囲の大きな期待をもって王位に就いたけれど、どんなに努力しても国情は安定せず民の信頼を得ることもできない。さらに麒麟は失道の病にかかってしまう。王宮の中で起きた殺人の真相はいかに?
犯人探しのミステリ風味も加わり、国を治めるということはどういうことなのかといった大きなテーマで、長編に匹敵するような読ませる物語に仕上がっています。「責難は成事にあらず」(何かを非難するだけでは、何にもならない)という砥尚の遺言は、昨今の党首討論をしている方々にも聞かせたい言葉です。

「帰山」
傾きつつあるという柳国で、利広と風漢がであった。五百年も六百年も各国を巡り歩き、そして帰る国を持つ彼らも、やはり永遠の王朝を信じることはできない。
利広は『図南の翼』に出てきたし、風漢はもちろん『東の海神 西の滄海』のあのお方です!こういう形で再登場するのは、とっても楽しい。