時のかさなり ナンシー・ヒューストン
横川晶子訳 新潮クレストブックス 2008年 2300円
横川晶子訳 新潮クレストブックス 2008年 2300円
家族史もしくは一族の物語は、クレストブックスにたくさん収録されています。大河小説のようなゴーシュの「ガラスの宮殿」や半自伝的なマンローの「林檎の木の下で」のように、時間軸に沿って進行する物語があります。マジックレアリズム的なケイト・アトキンソンの「博物館の裏庭で」は時間を自在に往復して語られています。そして、マクラウドの比類なき「彼方なる歌に耳を澄ませよ」やラヒリの「その名にちなんで」は、小説の構成テクニックに左右されない素晴らしさがありました。
ナンシー・ヒューストンの「時のかさなり」は、かなり凝った構成です。四つの章ごとに20年ぐらいずつ時間を遡っています。2004年、1982年、1962年、1944年にそれぞれ六歳だった四人の子供たちの目を通して語られる一族の物語です。半世紀を越える家族史がたった四つの点だけから、それも六歳の子供の限られた視点で表現されているために感情表現も限定的で、いくつもの疑問が解かれないままに次の章に進んでしまうのですが、それが読み手の好奇心をうまい具合に刺激します。そして痛ましくも感動的な結末に導いてくれました。
↓↓↓↓↓↓ネタバレというほどでもないけれど↓↓↓↓↓↓
2004年、イラク戦争後のカリフォルニア。六歳なのは甘やかされて育った小生意気なソル少年。パパのランディとママの三人暮らしです。父方の祖母セイディと有名な歌手だった曾祖母エラがたまに訪れるけれど、親子なのにエラとセイディの仲は悪いし、セイディがエラの過去を探しているって、いったい何でしょう。
1982年に六歳なのはランディ。とても穏やかな性格です。でも、ヘブライ語を習っているユダヤ人の先生にレーベンスボルンのことを質問して二度と教えてもらえなくなったり、家族と共にレバノン戦争時のハイファに滞在したとき、恋心をいだいていたアラブ人少女にひどく冷たくされて、大ショック。
1962年に六歳なのは、トロントで厳しい祖父母に育てられている真面目で不器用なセイディ。でもとても感受性が強いのです。ママのクリスティーナは家を出て新しいパパと結婚しました。有名な歌手となったママは、NYではエラと名乗ります。ある時リュートという見知らぬ男が訪ねてきました。誰?
1944年のドイツ。敗戦色濃い町で、大家族で暮らすクリスティーナは六歳。歌が上手で、頭の回転の速いしっかりした少女です。家族の誰とも似ていないことに気が付きます。ある時新しい兄がやってきました。なぜエラと名乗ったのか、そしてエラの特別な歌の秘密も明かされます。そして出生の秘密も・・。