壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

記憶に残っていること 堀江敏幸編

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記憶に残っていること 堀江敏幸
新潮クレストブックス短編小説ベスト、コレクション 2008年 1900円

マンローの初訳かと、勘違いと思い込みで借りてきました。10篇のうち半分が既読だったことに気が付いて、はじめはがっかりでしたが、再読できて良かったと思うものばかりでした。これまでにクレストブックスから出た短編集から、堀江敏幸さんが一作家一作品を選んだものです。ベスト・コレクションということで、アンソロジーとしてテーマはハッキリしませんが、クレストブックスの紹介という感じです。読もうかどうか迷っていたバックナンバー『シェル・コレクター』を思い出しました。さらに読みたくなった元の短編集は、最初のベズモーズギスと最後のトレヴァーです。

『マッサージ療法士ロマン・バーマン』(デイヴィッド・ベズモーズギス)<<『ナターシャ』より
カナダに移住したソ連出身のユダヤ人家族。すべてを変えた最後の一瞬の切なさ。

『もつれた糸』アンソニー・ドーア)<<『シェル・コレクター』より
しまった!という瞬間から後の男の行動は、可笑しいというか気の毒というか・・。静謐な文章との対比がいい。

『エルクの言葉』(エリザベス・ギルバート)<<『巡礼者たち』より
エルクの現れた瞬間の緊迫感と、抑えていた感情のほとばしり。

『献身的な愛』(アダム・ヘイズリット)<<『あなたはひとりぼっちじゃない』より
姉とゲイの弟と男のゆがんだ三角関係の悲哀。

『ピルザダさんが食事に来たころ』ジュンパ・ラヒリ)<<『停電の夜に』より
これも印象深い作品でした。

『あまりもの』(イーユン・リー)<<『千年の祈り』より
どこにも行くところがない林ばあさんの希望。

『島』アリステア・マクラウド)<<『冬の犬』より
クラウドはやはり素晴らしいと再確認。

『記憶に残っていること』アリス・マンロー)<<『イラクサ』より
マンローにしてはあっさり。

『息子』ベルンハルト・シュリンク)<<『逃げていく愛』より
この中では異色だが、シュリンクらしい悔恨。

『死者とともに』ウィリアム・トレヴァー)<<『密会』より
夫を亡くしたばかりの妻の語り。死者がもたらし、死者とともに去るもの。