クレストブックスの新刊にはこの頃ちょっとご無沙汰していましたが、8月に三冊ほど読みたいものがいっぺんに出版されました。そのうちの一冊ですが、ケイト・アトキンソンはまったく知らない作家なので、ラヒリやマンローをあとの楽しみに取っておこうかと、まずは読み始めたのですが、これが大満足のイギリス小説でした。イギリス小説は面白い!最近読んだフォースターとか、オースティンとかそういう系譜ですが、語り口はリアリズムの中に魔術が入っていますね。
1952年生まれのルビーが語る一族の物語は、彼女が受胎、正確には受精した時から語られ始めます。時間や空間を自由に飛び越えて語られるのは、曾祖母アリス、祖母ネル、母バンティーとルビーいう四世代の女たちの、普通の暮らしです。
19世紀後半から20世紀の終わりまで、二つの大戦を乗り越えて続いてきた庶民の生活にはそれなりの歴史があります。家族の死、別離、事故、裏切りなどなど。滑稽な中に哀しみと力強さがあるのです。ルビーと同世代の女性の読者なら、この面白さは倍増すると思います。文章中に括弧で示された訳注が詳しくて、イギリスの事情を知らなくても問題なく読めました。
こういう家族の年代記を読むときは、自分で家系図を作るのを楽しみにしていますが、一族六世代は総勢五十人以上で、今回はなかなか手ごわかったです。登場人物の数の多さばかりでなく、家系図の欠落部分にいろいろな仕掛けがあります。神視点をもつ語り手であるルビーも知らなかった部分があって、ルビーと読者が同時にそれを知ることになるあたりは、ちょっとしたミステリになって、かなり楽しめます。