壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

海と山のオムレツ  カルミネ・アバーテ

海と山のオムレツ  カルミネ・アバーテ

関口英子訳 新潮クレストブックス  図書館本

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目次がレストランのメニューのような形式になっていることがすべてを語っています。南イタリアカラブリアに生まれた著者の,食べ物と家族への愛の記憶で埋め尽くされた連作短編集です。前菜からデザートまでの16編のフルコースを味わううちに,南イタリアから,ドイツ,北イタリアへ,そして再び故郷へと移動する著者の半生が語られます。

登場する料理のほとんどはその土地特有で,料理名も材料も知らないものばかりですが,おいしそうな匂いと味を思いきり堪能しました。著者が孤独な食事を嫌って,誰かと共にする食事を求め,町で見知らぬ人とテーブルを囲む話も出てきます。行事や季節の節目に家族や友人知人とする食事は大宴会のようで,次々と運ばれる料理の湯気と匂いに満ち,人々がいろいろな言語や方言で話す声が聞こえてきます。

前菜の「海と山のオムレツ」は,七歳の著者が,祖母が作った具沢山のオムレツのサンドイッチをアリーチェ岬でかもめに奪われる話ですが,最後のデザートの「クツッパと茜に染まった卵」では,同じく七歳になった息子と両親とともにアリーチェ岬に向かうのです。かもめはまたあらわれるでしょうか?

 

イタリアでコロナの初期に感染爆発があった一因は家族の絆の強さなのかな,と思いました。

家族が旅立ち巣立って10年以上,毎日一人の食卓に向かう私は不幸なわけではないけれど,家族の食卓はやはり楽しいのだと思い出しました。この本を読み終わって,楽しい気持ちと寂しい気持ちの両方を味わっています。今はコロナで孤食はやむをえませんが,寂しい思いをしている人も多いでしょう。

 

今日は大雨で散歩もできず,久しぶりに一日で読み終えてしまいました。