壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

タヌキたちのびっくり東京生活 宮本 拓海

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タヌキたちのびっくり東京生活 宮本 拓海
しおやてるこ NPO都市動物研究会 共著 技術評論社 2008年 1580円

今読んでいる長編がなかなか捗らないので、気分転換に軽い科学読み物を一冊読みました。京都での狸の大騒動と比べて(笑)、というわけではありませんが、以前TV「ダーウィンがきた」で世田谷の踏切の側溝で子育てするタヌキの話が印象的でした。東京都心23区で暮らすタヌキは推定1000頭だそうで、どこでどんな暮らしをしているのか、都市と野生動物の共存という観点から書かれた、読みやすくて面白い本でした。

タヌキの見分け方から食べ物や行動などの基本情報も興味深いですが、一番面白かったのは、都内23区のどこにタヌキが住んでいるのかという章でした。自然の中でのフィールドワークとは異なり、都市という特殊事情ゆえにタヌキの生息分布図のもとになるのは、もっぱら住民の目撃情報です。ホームページで目撃情報を募集したり、ブログやその他のHPでの記事を収集したりとネット社会ならではの方法です。

多くの情報から目撃地点を特定し分布図を作っていくと、そこから浮かび上がるのは、武蔵野台地に生息するタヌキの7つのグループだそうです。このグループ分けは、もちろん確定的ではなく、かなり大胆な推論の元に行われてはいますが、そこが一番面白いところでした。

このグループ分けの根拠は、
①タヌキの生息地は緑地であり(公園、御所、神社仏閣、墓地、大学など)タヌキの移動範囲はあまり広くない。
武蔵野台地の崖地は一般的に開発されずに緑地が多くてタヌキに好まれる。
③鉄道の(特に高架の少ない)路線沿いにタヌキが生息、移動する。
④環七、環八のような大きな道路は横断が困難であるが、抜け道もある。
⑤広い河川敷沿いに生息、移動する。

このような根拠から地図を徹底的に眺めた結果、下のような七つのグループに分かれるそうです。(図を載せたいところですが、新刊なので控えます。)

A荒川南岸グループ(板橋、北区から北千住に及ぶ広い地域)
B西武線グループ(西武新宿線池袋線沿いの練馬、中野。下落合でEとつながる)
C京王線グループ(京王線井の頭線沿い。南は小田急線まで広がり、善福寺川を経てBとつながる)
D多摩川グループ(荒川に比べ水量が少ないので、対岸の川崎まで広がる)
E目白グループ(文京区~新宿区の神田川北岸の目白崖線)
F御所グループ(皇居、赤坂御用地新宿御苑明治神宮の飛び地だが行き来する回廊があるらしい)
G水元グループ (水元公園付近。23区内、唯一武蔵野台地でないところ)

タヌキが鉄道線路沿いに移動する事から、蒸気機関車に化ける話を連想したのですが、著者宮元さんのHP東京タヌキ探検隊記事にありました。タヌキの『偽汽車』は全国に存在する伝承で、且つタヌキの目が暗闇で光を受けて反射することに由来するのでは?というのですが、なるほどね。

もう一つ面白かったのが、数値地図とそれを画像にするソフトの話。国土地理院発表の数値データを画像にすることで、普通の地図からは読み取りにくい東京都心の微妙な高低差が一目瞭然となります(本書のカラー口絵にある地図は、著者が自分で作ったものだそうです)。