深海のYrr(イール) 上・中・下 フランク・シェッツィング
北川和代訳 ハヤカワ文庫 2008年 各800円
北川和代訳 ハヤカワ文庫 2008年 各800円
ドイツのSFを読みたいと、ずっと楽しみにしていた本がやっと読めました。上中下三巻揃いでは借りられないため、図書館の予約に乗り遅れて珍しく購入したのに、二ヶ月間積読状態でした。本を所有するとそれだけでかなり満足します。文庫本とはいえ総計1500ページ超です。途中忙しかったこともあって、一週間以上かかりました。面白いけれど長かった。
世界各地の海で異変が頻発し始め、それが北ヨーロッパをはじめ先進国が壊滅するような大災害を引き起こす。世界中の科学者がアメリカ海軍の協力の元で、その原因究明と対策にあたるという話、アメリカの覇権、環境汚染云々はそれほどユニークなものではありません。日本人はクジラを食いアメリカ政府は隠蔽するなんて、ちょっとありきたり。でも面白かった。
まず面白いのは科学的な記述の細部です。 メタンハイドレートに巣食うゴカイによってどのように深海の大陸斜面が崩壊していくかとか(フィヨルドの奥に迫る津波のシーンはド迫力でした。)、メタン資化性菌とメタン生成菌のバランスとか、深層海流が停止するメカニズムだとか、未知の生命体と人工知能とかフェロモンとか、ごく個人的な好物がたくさんありました。
著者シェッツィングが本書を取材した資料から副次的に書かれた『知られざる宇宙―海の中のタイムトラベル』の方を先に読んだので、科学的事実とフィクションの境界線にさらに興味を惹かれました。「ありえない!」はずのことになんだか納得してしまいます。
長々とした詳細な科学的記述は興味深い反面、話の展開はまだるっこいですが、読みやすい。人類存亡の危機がじりじりと迫るので、長くても飽きませんでした。最後には派手なアクションシーンもあり、妙に思索的な記述もあって何しろ盛りだくさんでした。ハリウッドでの映画化が決まっているそうで、いかにも、という感じです。