壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

見知らぬ場所 ジュンパ・ラヒリ

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見知らぬ場所 ジュンパ・ラヒリ
小川高義訳 新潮クレストブックス 2008年 2300円

「停電の夜に」「その名にちなんで」に続く三作目です。五つの短編と三つの連作短編はどれもラヒリらしく、静かに心にしみこんできます。インドからアメリカに移住した人たちの話ではあるけれど、私たちが普通のくらしで出会う、ありふれた出来事と重なります。

重なっているかなと思うとふっと違う方向に向かったりして、驚きもあるけれど、やはりそれは静かなもの。繊細な語り口に、著者の柔らかで優しい眼差しが感じられます。第二部の「ヘーマとカウシク」のラブストーリーは切ない甘さに堕することなく深みがあって、長編のような余韻を残します。

第一部
「見知らぬ場所」・・・母が亡くなったあとの、父と娘の距離
「地獄/天国」・・・異郷に暮らす若妻の、隠された激情
「今夜の泊まり」・・・夫婦の気持ちのすれ違いと結末
「よいところだけ」・・・道を外れていく弟を思う姉の気持ち
「関係ないこと」・・・気になる異性のルームメイト
第二部 ヘーマとカウシク 
「一生に一度」/「年の暮れ」/「陸地へ」・・・子供のころに一度出会った男女の三十年



一昨日に読み終えたアトキンソン「博物館の裏庭で」も普通の人の、普通の暮らしを描いた作品だったので、どちらも素晴らしいけれど、あまりに違う語り口に戸惑いました。続けて読まないほうが良かったかもしれません。ゆっくり読もうと思ったのに、つい読了してしまいました。