壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

カラスはなぜ東京が好きなのか 松田道夫

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カラスはなぜ東京が好きなのか 松田道夫
平凡社 2006年 1800円

イメージ 2我が家の二階の窓から見える小高い茂みにカラスの巣があるらしいのです。種類はよく分かりませんが、カラスが常時出入りし、先月は鳶が近くの給水塔にとまっているのを頻繁に見かけました。結局カラスに追い払われていましたが、カラスの幼鳥をねらっていたのではないか?と思うのです。現在は巣立ちもすんだ時期らしいので、来年は観察するつもりです。

でも、もしかしたらカラスの巣は私の妄想かもしれません。・・というわけで人里近くに巣作りをするカラスの生態を知りたくて図書館でカラス関連の本を探したら、沢山ありました。悪さをするカラスは憎まれもするけれど、人間にとって身近な存在として愛されてもいるのでしょうね。

著者の松田さんは野鳥の会のメンバーで鳥研究家です。本書は、住居近くの六義園を中心に一キロ四方を調査地として、2000年から2005年まで丹念にカラスの営巣について調査した記録です。ところがこれが無味乾燥な調査報告ではないのです。カラスの生態はもちろんのこと、歩き回ることによってカラスと都市の密接な関係を探り出す、とても面白い本でした。

「カラスはなぜ東京が好きなのか」というと「東京は住みやすいから」なんです。「山に住んでいたカラスが開発によって生息地を追われ人間と暮らさざるをえない」なんてことはないのです。カラスはいわば「江戸っ子」。江戸時代からこの地に住んでいました。

カラスを調査する際の面白い出来事も満載でした。双眼鏡を首からかけて町をうろつくと、電気メーターの検針員に間違われ、某邸宅前で警察官数名に取り囲まれるようにして職質を受けました。ラブホの広告塔にかけられた巣の観察には通報されないかドキドキし、一般の住居にカラスの巣があることを教えると、巣の撤去を頼まれたりもしました。

町の人たちからあやしいオジサンと思われるばかりか、カラスにもあやしいオジサンとして警戒されます。週に一回は巣の様子を見に来るので、カラスは松田さんを覚えているらしいのです。雛鳥の給餌、幼鳥の巣立ちの前後には親鳥から激しい威嚇を受けます。二十人近くの人に混じって歩いていても、松田さんを見つけては「カアカア」と威嚇するそうです。

カラスは体色に変化が乏しくて個体識別は難しいのですが、松田さんに対する警戒反応には個体差があって行動がそれぞれ異なるため、行動による個体識別ができるそうです。これは逆に、松田さんがカラスによって個体識別されているということになりますね。六義園付近のカラスの間では有名人である松田さんも浜離宮公園ではまったく警戒されなかったので、松田さんの風体が特別にあやしい訳ではないようですよ(笑)。

カラスの攻撃を受けてミミズ腫れを作ったことが一回だけあるがこれがとてもうれしかったとか、カラスの交尾を一度だけ偶然に見かけたときカラスと目が合って、なんとなく恥ずかしかったとか、カラスと人間との交流が調査の醍醐味だそうです。暴風雨の中で巣の雛鳥に覆いかぶさって守った親鳥の姿は愛情深いものです。人間を攻撃するのは雛や幼鳥を守るときだけだそうです。人間が近づいたときにあまり騒ぎ立てないカラスの夫婦の方が、攻撃的なつがいより子育てが上手であるとか、カラスの夫婦はたぶん一生添い遂げるらしいと聞くと、親しみを覚えます。

「カラスの天敵はカラス」ということで共食いもありますし、かわいいカルガモの雛を襲うのもカラスです。東京都でカラスの被害がいわれるようになって、捕獲作戦が進み何万羽ものカラスが殺されました。でも実際には東京都のカラスの数が減っているかどうかは疑問だということです。六義園でもカラスの巣落しが行われ、松田さんは不本意ながらそれに協力せざるを得ないそうです。ほんとうは、人間が生ゴミをきちんと管理してカラスの餌を減らせば、自然に個体数が制限されるはずです。でも人間はそれを待てないんですね。

六義園付近をグーグルマップで捜していたら、「ストリートビュー」という新しい機能を見つけました。公園の木も近くのマンションも、主要な道沿いの風景も、360度のパノラマ写真で見ることができました。カラスが巣をかけていた駒込駅近くの神社の大木まで特定できます。カラスこそ写っていませんでしたが、生ゴミが散らかっているのまで見えて、便利なのか、不都合なのか分かりませんが、驚くべき機能です。