壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

ディビザデロ通り マイケル・オンダ-チェ

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ディビザデロ通り マイケル・オンダ-チェ
村松潔訳 新潮クレストブックス 2009年 2200円

哀しくて美しい、心惹きつけられる作品に出会いました。場所も時間も越えてかすかにつながる幾つもの物語には、はじまりも終わりもないのでしょう。一人の人間の中に抱え込まれたいくつかの物語の一つをたどっていくうちに、また別の人間が抱えるいくつかの物語にたどり着き、偶然に別の物語が始まるというように、この世界はそんな繫がりで成り立っているのかもしれません。

カリフォルニアの片田舎の農場で暮らす家族は、父親と娘アンナ、血のつながらない妹クレア、そして引き取られた孤児クープ。ある事件ののちに家族はばらばらになり、それぞれの物語につながっていきます。家を追われてギャンブラーになったクープはそれとわからぬままにクレアと再会しました。文学研究家としてフランスに渡ったアンナはロマのギタリスト、ラファエロと出会い、さらにラファエロが少年時代に出会った作家リュシュアンの記憶につながり、さらにリュシュアンの少年時代に出会った隣人マリ=ネージュの物語が始まります。

それぞれの物語は断片的に語られ完結することもないのだけれど、静かな語りによって哀しく美しいものが浮かび上がってきました。この感動がどこから来るのか、はっきりとは分りかねます。オンダ-チェは初めてです。「イギリス人の患者」は何か取り留めのない話だなあと読まずにいましたが、読んでみようかしら。