壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

日曜日たち  吉田修一

日曜日たち 吉田修一

講談社文庫  大活字本(埼玉福祉会)図書館本

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図書館で「大活字本」を借りた。なかなか快適。老眼が進んで文庫本を読むのがつらくなったが,電子書籍は図書館で借りられないので書籍費がかさむし,活字は大きくできるがKindle端末は画面が小さいので快適な読書環境とは言えない。電子書籍をPCの大きいディスプレィで読むことも多い。

大活字本はいろいろあるが,この本は文庫本が底本で, A6→A5,ページ数224→333だから,拡大率はおよそ3倍になるのだろうか,見開きの紙の本の快適さも手伝って一時間余りで読み終えた。音訳図書と違って,大活字本は誰でも借りられるので便利だが,残念ながら大活字本には海外文学の翻訳物はほぼ皆無で,読みたいと思える本がなかなか見つからない。

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都会に暮らす男女の人生を切り取って描く,連作短編集が素晴らしかった。

「日曜日のエレベーター」毎週深夜にゴミ出しが習慣になった30歳の無職の渡辺は,週末にいつも見送っていた恋人の圭子を思い出していた。

「日曜日の被害者」短大時代の友人千景が強盗にあったという話を聞いた一人暮らしの夏生は,突然にいわれのない不安に駆られて日曜日の深夜にタクシーで恋人の佐々木の部屋に駆けこんだ。

「日曜日の新郎たち」親戚の結婚式で上京してきた父親とは高校卒業後から疎遠だった健吾は,身近な人を失った同志として改めて父親との距離が縮まったように感じた。

「日曜日の運勢」流されるままに転々としながら付き合う女に逃げられてしまう女運の悪い田端だが,今度の同棲相手にはサンパウロに誘われた。

「日曜日たち」同棲相手のDVを我慢し続けた乃里子がやっとの思いでたどり着いた支援センターで自分の居場所を見つけた。

各編をつなぐのが過去に出会った家出をしてきたであろう幼い兄弟の存在だ。食べ物を分けてあげ,行方のわからない母親を探したりと,小さな出来事が繋がって最後に深い感動を貰った。