壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

次なるパンデミックを回避せよ 井田徹治

次なるパンデミックを回避せよ  環境破壊と新興感染症  井田徹治

岩波科学ライブラリー  図書館本

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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が動物由来感染症人獣共通感染症)であることはもちろんだが,今までには流行しなかった新興感染症がエピデミックやパンデミックを起こす背景には,環境破壊,気候変動など,人間がこれまで引き起こしてきた環境問題がある。生態系の回復,環境問題の解決こそが次なるパンデミックを回避する術だという。著者は環境問題を扱うジャーナリスト/サイエンスライターで,専門家のインタビューや現地の取材が説得力を持っている。

パンデミック回避のための根本的な道筋は,人類による森林破壊,地球温暖化生物多様性の消失,経済優先の生活様式を方向転換し,たとえばSDGs(持続可能な開発目標)に沿った人類全体での行動変容だという。

 

しかし,この本を読んでも今の私には明るい未来が描けません。直前に読んだアトウッドの『オリクスとクレイク』の人類絶滅?ディストピアから離れることができないでいます。京都議定書はどうした,パリ協定はどうする,誰も約束なんか守れない,人口が増えすぎた単一種に対する自然からの報復だ……失礼しました。一晩寝てからもう少しまじめに考えます。

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新興感染症とか,エマージングウイルスとかいう言葉を耳にしたのは1990年代だったような覚えがあります。天然痘の根絶を旗印にした感染症の制圧という人類の夢は,HIVエボラウイルス,ハンタウイルスなどのエピデミックにより簡単に潰えてしまいました。ウイルス感染症だけでなく,古いタイプの細菌感染症結核など)は薬剤耐性の問題で再興し,BSE(ウシ海綿状脳症)という全く新しいタイプの感染症が現われ,21世紀は感染症テロリズムの時代という予測がありました。1990年代半ばの資料を探して読んでみましたが,このころはすでにエマージングウイルス出現の背景として,①生態系の変化と農業発展 ②人口動態と行動の変化 ③国際交流と貿易 ④技術と工業 が挙げられていました。地球温暖化が生態系の変化を生み新たな感染症を招くとの警告もよく覚えています。

 

21世紀に入って新型インフルエンザ,ウエストナイルウイルス,SARS,MARSとたて続けにエマージングウイルスが出現しましたが,幸いなことにエピデミックで終息しパンデミックにならなかったことで,私たちは油断してしまったのでしょう。 本書のあとがきの中で,同時多発テロを招いたのは事前に多数の情報があったにもかかわらず9.11を予測できなかったのは「想像力の欠如」だったという米委員会の報告書の言葉を引用し,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックを招いた原因の一つもやはり「想像力の欠如」だと書かれています。

 

本書のあとがきの中での著者の下記の言葉は重い。

エボラ出血熱重症急性呼吸器症候群SARS)が次々と発生し、人間が引き起こす環境破壊がその背景にあることを示す研究や警告は多数、われわれの目の前にあった。だが、われわれはそれをつなぎ合わせ、世界経済を麻痺状態に追い込むようなパンデミックが起こるのだということを想像する力を持っていなかった。同時多発テロの時もそうだったし、深刻化する地球温暖化に関しても同じことが言える。自分自身、世界各地での取材の中で、森林破壊や絶滅に瀕した動植物、ブッシュミート市場などを目にしてきたのだが、それをパンデミックと結びつけ、人々の想像力をかき立てるような報道をしてきたかと言われれば、答えは「ノー」である。自らの貧困な想像力を恥じるという10年前の東京電力福島第一原発事故の時に感じたのと同じ自責の念に囚われながらまとめたのが本書である。今や、われわれは次の、もしかしたらもっと悲惨なパンデミックが起こるという事態を容易に想像できるはずだ。もはや行動しないことは許されない。そんなメッセージを読者に伝えられたらと思う。

目次

序章 動物由来感染症の時代

第1章 進む森林破壊

第2章 地球温暖化がもたらす感染症

第3章 広がる野生動物食

第4章 ペット取引のリスク

第5章 肉食とパンデミック

第6章 生物多様性の視点

終章 根本からの変革を

あとがき