壊れかけたメモリーの外部記憶

読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

ウナギが故郷に帰るとき パトリック・スヴェンソン

ウナギが故郷に帰るとき パトリック・スヴェンソン

新潮社                図書館本

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ウナギの生命誌研究史・文化史を興味深いエピソードとともに綴る冷静なノンフィクションの章と,著者と父親のウナギ釣りという個人的な思い出を詩的に語る章とで交互に構成された本は,深い感動を起こした素晴らしい読書体験でした。 著者はスゥエーデンのジャーナリスト。ウナギや自然に対する敬意こそが,自然保護の原点なのです。

 

前回読んだウナギの本を図書館に受け取りに行った時に新刊図書の棚で見つけ,話題の本とも知らずに,カバー絵からファンタジーな物語を想像していたのですが,抒情的ノンフィクションという想像もしていなかった本でした。ノンフィクション部分も面白く父親との思い出も感動的ですが,この二つが組み合わさって,生命への根源的な問いと人生の意味を思索するような不思議な感覚です。スゥエーデンのグレタさんのように声高に自然保護を訴えるようなことは全くないのに,自然保護を改めて真面目に考えされられました。

 

「ウナギ→蒲焼」という下心のある日本人の狭い視野からは想像もつかないノンフィクションです。ヨーロッパにおけるウナギの位置づけ,アリストテレス,リンネ,フロイトなどウナギにかかわってきた研究者のエピソード,歴史や文学に現れるウナギなどの驚くべきエピソードにあふれています。ヨーロッパウナギに対するかなり厳しい保護施策も,ウナギの減少を食い止められない様子に危機感を覚えます。『結局,ウナギは食べていいのか問題』で読んだような状況のニホンウナギはもっとヤバいですが,日本の養鰻場で稠密に飼われているウナギに発生した感染症が世界中のウナギに広がっているという話で,「蒲焼が食べられなくなる」という危機感がとても浅薄で恥ずかしいものに思えてきました。

 

ウナギの産卵場が突き止められたからといって,ウナギの謎のすべてを人類がわかるわけではありません。気候変動がどんな環境破壊を引き起こすのか,私たち人類が知らないたくさんの謎が自然界に隠れていて,どんなに科学技術が進んでも,破壊したら取り戻せないものが地球上にはたくさんあります。取り戻せない自然と共に生きていかなければならない人類の未来と,実は人類がいなくても地球が存続していく未来と…いろいろなことを考えました。温暖化による環境変化が新型の感染症をもたらすのは自明の理です。人類の経済活動を抑制する方向に自然が動いているような気がします。19世紀から始まった「化石燃料文明」はもうピークアウトしているのではないでしょうか。