壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

音楽嗜好症 ミュージコフィリア オリヴァー・サックス

今週末はまた実家へ。東京はまだまだ揺れているので落ち着かないでしょうね。
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音楽嗜好症 ミュージコフィリア オリヴァー・サックス
大田直子訳 早川書房 2010年 2500円

サックスの最新刊。「人間にとって音楽とは何か」というのが大命題ではありますが、サックスによる豊富な実例が実に興味深く、その奇妙で素晴らしい体験や症状に困惑する患者たちへの、サックスの共感のまなざしが感動的です。音楽に対する深い造詣を持つ著者ならではの、楽しい本でもありました。読書の醍醐味ってこういうことなんだろうなあと久しぶりに思った本です。(2011年1月読了)


目次とメモ
序章
人が音楽に大きな力を感じるのはなぜなのだろうか。生物学的な因果関係に関する限り音楽は生存には無用だろう。音楽は他の適応的な能力の副産物なのではないか。それにしても音楽を知覚する能力は複雑で、音楽知覚に関する障害も多種多様である。
第1部 音楽に憑かれて
第1章 青天の霹靂‐突発性音楽嗜好症
落雷による臨死状態から回復したトニーは、突然ピアノ音楽に執りつかれた。右側頭葉の腫瘍摘出手術を受けた後に音楽中毒になった女性化学者。
第2章 妙に憶えがある感覚‐音楽発作
側頭葉発作に伴う音楽発作では、聞き覚えがあるはずなのに特定できない音楽が聞こえる。
第3章 音楽への恐怖‐音楽誘発性癲癇
音楽によって誘発される癲癇発作で、音楽の種類はさまざま。クラシック音楽、懐メロ、現代音楽、ナポリ民謡・・・
第4章 脳の中の音楽‐心象と想像
音楽をイメージすることは、実際に音楽を聴くことと同じくらい脳の聴覚皮質を活性化する。人はみな頭の中で音楽を聴いている。
第5章 脳の中の虫、しつこい音楽、耳に残るメロディー
特定の旋律が頭にこびりついて離れないのは誰しも体験するが、神経疾患によっても起こる。
第6章 音楽幻聴
 難聴に伴って起きる音楽幻聴。通常の入力を失った脳の聴覚野の自発的な活動か。
第2部 さまざまな音楽の才能    
第7章 感覚と感性‐さまざまな音楽の才能
音感と音楽的センスはまったく別のもの。幼い子供の音楽的訓練。
第8章 ばらばらの世界‐失音楽症と不調和
 いわゆる音痴の形はさまざま。リズム、音程など。完全な失音楽症=音楽を音楽と感じられない。
第9章 パパはソの音で鼻をかむ‐絶対音感
 幼少期の視覚障害絶対音感の関連性。絶対音感と言語的背景(声調言語)。
第10章 不完全な音感‐蝸牛失音楽症
 加齢による聴力低下と音程の歪み。音楽家の悩みと解決。
第11章 生きたステレオ装置‐なぜ耳は二つあるのか
 片耳による立体知覚の喪失と獲得。
第12章 二000曲のオペラ‐音楽サヴァン症候群
 音楽サヴァンの多くは視力障害。右脳半球の代償的過剰発達。
第13章 聴覚の世界‐音楽と視覚障害
   盲目の音楽家。大脳皮質の三分の一が視覚に関与。視覚器官からの入力喪失による皮質の再編成。
第14章 鮮やかなグリーンの調-共感覚と音楽
 色つきの音楽体験。調性と色。調性と味。
第3部 記憶、行動、そして音楽
第15章 瞬間を生きる-音楽と記憶喪失
 重度の記憶喪失だが、音楽の記憶だけは失われない。手続き記憶なのか。
第16章 話すこと、歌うこと-失語症音楽療法
 言語療法で取り戻せない発語に音楽療法が功を奏すこともある。右半球の回復?
第17章 偶然の祈り(ダーヴニング)-運動障害と朗唱
 身体的自動症
第18章 団結(カム・トゥギャザー)-音楽とトゥレット症候群
 音楽によるチックや反復運動のマスキングと驚くべきパフォーマンス。
第19章 拍子をとる‐リズムと動き
 怪我による神経損傷の回復を音楽が助ける。
第20章 運動メロディー‐パーキンソン病音楽療法
 『レナードの朝』凍りついた患者を溶かす音楽。
第21章 幻の指‐片腕のピアニストの場合
 失われた指に相当する部位の活性化
第22章 小筋肉のアスリート‐音楽のジストニー
 音楽家の書痙。運動システムでなく感覚システムの障害。『シューマンの指』
第4部 感情、アイデンティティ、そして音楽
第23章 目覚めと眠り‐音楽の夢
   作曲家たちの夢のインスピレーション
第24章 誘惑と無関心
 脳卒中の後の音楽への無関心。フロイトは音楽に無関心だった。
第25章 哀歌‐音楽と狂気と憂鬱
 音楽による癒し。
第26章 ハリー・Sの場合‐音楽と感情
 脳障害による無感動の症状をもつハリー・S。歌うときの感情の表出。
第27章 抑制不能‐音楽と側頭葉
 歌を歌い続ける脱抑制。前頭側頭認知症による音楽嗜好。ラヴェルの『ボレロ』は認知症の産物?
第28章 病的に音楽好きな人々‐ウィリアムズ症候群
   音楽に対する強い愛着。低いIQと豊富な語彙と驚異的な音楽の才能。側頭葉の発達。
第29章 音楽とアイデンティティ認知症音楽療法
   見当識障害であっても音楽の能力は保たれる。