壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

侍女の物語 マーガレット・アトウッド

侍女の物語 マーガレット・アトウッド

ハヤカワepi文庫 電子書籍

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侍女の物語』はディストピア小説として1985年に書かれたものだ。ユートピアはいつも,私たち現在の世界から遠く離れた所にあるのに,ディストピアはいつも,現在と地続きの所にあるのだ。

 

続編の『誓願』を借りてきたが,『侍女の物語』の細部の記憶をたどれず,あきらめて再読した。初読では,この世界の奇異な部分にとらわれて全体像があいまいなままだったが,再読でもやはりあいまいな部分は残されたままだ。

唯一の語り手であるオブフレッドの現在の中に,頻繁にフラッシュバックする彼女の過去‐夫と娘と暮らした過去‐が痛ましい。ある日突然に,銀行口座を封鎖されて自立した生活を奪われ,名前さえも奪われて子供を産む装置としてのみ扱われる彼女の現在の生活,さらに虐げられた人々のたくさんの階層からなる社会の構造,抵抗組織メーデーの存在。宗教は政治の道具となり,人々を救済することはない。追い詰められた彼女はいう。

わたしは体に、脚や目に疲労を感じる。それが人を最終に捕まえるものだ。信仰とは刺繍された言葉にすぎない。(第15章 夜)

 彼女はどこに行ったのだろう。ところが最後の“『侍女の物語』の歴史的背景に関する注釈”という章で,22世紀の終わりころに開催された「ギレアデ研究の第十二回シンポジウム」で彼女オブフレッドの語りの信憑性が取りざたされるのだ。その信憑性について,我々読者が判断する余地は全くないのだが,オブフレッドの時代から約2世紀後の世界がどうなっているかのほうが気になる。ギレアデというキリスト教原理主義全体主義国家はもうないらしい。シンポジウムの参加者たちはどういう人物たちなのか。ギレアデの文化を揶揄するような発言が多い。

 

続編で何が明かされるのか!  再読にすっかり時間がかかってしまった。さあ,『誓願』を読もう。図書館の期限が迫っている。