壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

説教したがる男たち  レベッカ・ソルニット

説教したがる男たち  レベッカ・ソルニット

ハーン小路恭子訳  左右社  図書館本

『災害ユートピア』で出会ったレベッカ・ソルニットの著作は幅広い。面白そうな題名が目に留まった。『説教したがる男たち』(Men Explain Things to Me)。テーマはフェミニズムだ。「マンスプレイニング(manとexplainの合成語)」は辞書にも載っているそうだ。もちろんそうじゃない男はたくさんいるが、上から目線で何か言ってくるヤツもたくさんいたなあ。若いころの不快な記憶がかすかによみがえる。

この題名のもとになったエピソードが面白い。あるパーティーに友人と参加したソルニットは、主催者である大金持ちの男に、ソルニット自身が書いた本の内容について教えてやるとばかりまくし立てられたという。友人が「それは彼女が書いた本ですけど」と割って入っても、男は聞く耳持たず、滔々と長話をつづけた。友人が繰り返し「だから、それ彼女の本です!」と繰り返し、男はやっとそれに気が付き、ショックで口がきけないほどだった。

この笑い話のようなエピソードから始めて、ソルニットは女性を対象にした暴力や殺人という問題に踏み込んでいく。日常的に埋もれてしまいそうな小さな「ムナクソ」は、セクシャルハラスメント、レイプ、脅迫や殺人といった重大な問題につながっていくのだ。いくつもの実際の事例は読んでいて気分が悪い。

五十年前と比べれば、フェミニズムの観点から社会は進歩しているというが、まだ先は長いと言うソルニットの、明快でユーモアに満ち同時に切れ味の鋭い言い回しをメモしておこう。

  • 自分のパートナーを暴行する男たちと、マララ・ユスフザイを殺害しようとしたタリバーンの男たちの間に本質的な差はない。
  • 保守派はなぜ同性婚をおそれるのか。同性婚を認めれば、異性婚の不平等な側面が浮き彫りにされる。伝統的な結婚を守ることは、それ以上に伝統的な性役割を守ることである。
  • 家系図を千年さかのぼっても女は存在しない。女の名前はなく、排除されている。名前はなく、ミセス○○でしかない。 そうそう!紫式部だって本名はよくわかっていない。アトウッドの『侍女の物語』で、女はオブ○○と呼ばれていた。寅ちゃんが「無能力者ってなによ」って言ってたよ。
  • アフガニスタンの家族写真に写る女は全身をヴェールで覆っていて、布か家具のように見えた。ヴェールは、持ち運び可能な監禁用の建物のようだ。
  • 女を家に閉じ込めることは、父系社会において、父が息子の出自を確かめ自らの血統に基づく家系図を作り上げるうえで必要なことだった。母系社会ならそんなコントロールは不要だ。
  • 大学のキャンパスでレイプ事件が多発し、大学当局は、女子学生を一人で外出させないという対処をした。女はいつも閉じ込められる。いたずらものが、「男性は夕方以降はキャンパスに居てはいけない」というポスターを貼りだした。
  • 女たちは被害の真実を告げても信じてもらえない。女が沈黙するプロセスは同心円状になっている。一番内側に「内面における禁止や自己懐疑、抑圧、混乱と恥の意識」がある。次に「語ることで罰せられたり、追放されたりするのではないかという恐怖」がある。その外側に、「語ろうとする人物を辱め懲らしめ、死に至るほどの暴力をふるうことで黙らせようとする力」がある。一番外側に「自ら語ることはできても、語ることで、語り手の信頼性が傷つけられ、攻撃される」というパターンがある。セカンドレイプということね。
  • 大量殺害事件が起きて、暴力が精神疾患によるものだという見解が出ることがある。統合失調症の妄想には国の文化的背景が影響する傾向があって、合衆国の統合失調症の患者は暴力を振るえという幻聴を聞く傾向が強いらしい。

ソルニットの本をもう一冊読もうと思っていたが、今はチョッとお腹イッパイ