壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

オリーヴ・キタリッジ、ふたたび  エリザベス・ストラウト

オリーヴ・キタリッジ、ふたたび  エリザベス・ストラウト

小川高義/訳 早川書房   図書館本

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 ✉ おかえりなさい, オリーヴ。 

『オリーヴ・キタリッジの生活』からもう十年。その間も,あなた様は元気でお暮しのようですね。HBOのドラマも拝見いたしました。ジャックって,あの車で轢きそうになったジャックですか! 平穏に思える長い人生の中でも,個人的には怒涛の出来事が起こり,そして最後にはまた一人になっていくのですね。老年期の生活も心の中はけっして平穏ではないのはわかっているのですが…。オリーヴ,あなたの生活を覗き見て,私も,没イチの長い一人暮らしの老年期をどう泳ぎ切っていくのか(又は,どこでおぼれるか)少しばかり先が見えたような気がしました(いや,もう結婚はしませんよ)。

 

前作と同様に連作短編で,メイン州の小さな町に起こる出来事が数年置きに描かれています。13編のすべてに、脇役として、時に主役として登場するのがオリーヴ・キタリッジです。彼女の70代半ばから80代半ばまで,つかずはなれずオリーヴの人生の断片を拾い上げながら物語が進行します。人が老いるとはどういうことなのか…。自立して生活できたとしても不安感や寂しさは付きまとい,老いてもなお新しい楽しみもあります。

 

オリーヴの強烈な個性も年と共に丸くなり,言わなくてもいいことは言わないで済ませる術も身につけたようです。その分ため込んだ心の声の持って行き所である独り言(独白=毒吐く)もマイルドになったような気がします。訳者のあとがきによれば,86歳になったオリーヴの物語はこれで終わりなのかもしれませんが,メイン州の小さな町の話はストラウトの他の作品にも出てくるそうで,やはり簡単なメモを作っておきましょう。

 

『逮捕』ジャック・ケニソンはスピード違反でパトカーに止められた。数か月前に亡くなった妻や同性愛者の娘のことを考える。

『産みの苦しみ』オリーヴ・キタリッジは,自分の車の後部座席での出産に立ち会う。ジャックにその話をして,さらに子供たちのことも話しながら…。♪そんなことがあればだれかに話したい。

『清掃』ケイリー・キャラハンは八年生で,バーザ・バブコック家とリングローズ先生の家の掃除のバイトをしている。近所に住んでいたミニーさんに会いに定期的に老人ホームを訪れる。♪思春期の揺れる心とピアノの関係がおもしろい。

『母のいない子』NYの息子クリストファーが再婚相手の連れ子達とクロスビーにやってくる。オリーヴ自身の初孫ヘンリーは二歳。オリーヴの家は荷物がなくなって片付いている。♪息子じゃなくたって,我々読者だって,びっくりですわ。

『救われる』ラーキン家が焼け落ちて父が亡くなり母はすでに施設に入居。ボストンからやっていた娘スザンヌは父の友人の弁護士バーニーに会う。スザンヌの精神的につらい状況を救ったのはバーニーだった。

『光』抗がん剤の自宅治療中のシンディ・クームズをオリーヴが見舞う。教え子だったシンディに対してオリーヴは距離が近すぎるくらいおしゃべりをする。♪親切からだが,お見舞いというよりつい自分自身のおしゃべりをするオリーヴ。

『散歩』デニー・ペレティエは散歩しながら昔を思い出すが,ある出来事に出会って考え方が少し変わる。

『ペディキュア』ジャック(79)とオリーヴ(78)は車で隣町のレストランに行き,ジャックのかつての愛人エレインに出会う。帰りに車がいたずらで傷つけられていた。♪「これが最後の車なんだ」と嘆き,オリーヴは足の爪が切れないと嘆くのが,身につまされる。

『故郷を離れる』バージェス夫妻(ジムとヘレン)は弟夫妻(ボブとマーガレット)を訪れる。ヘレンとマーガレットはなりゆきで一緒に観光することになるが,居心地が悪い。ジムとボブと妹のスーザンは,故郷シャーリー・フォールズでの子供時代の事件を語る。♪『バージェス家の出来事』(ストラウト第4作)の人々らしい。そのうち読もう。

『詩人』オリーヴ(82)は教え子で,有名な詩人のアンドレア・ルリューに出会う。いろいろしゃべったことが詩に書かれていて,詩が載っている雑誌の処分にウロウロしてしまう。♪ジャックを亡くしたばかりのオリーヴはアクセルとブレーキを間違えたって…それでも運転している。

南北戦争時代の終わり』マクファーソン夫妻(ファーガスとエセル)は,黄色いテープでゾーニングして家庭内別居している。娘のリーサが出演するドキュメンタリーをめぐって一騒動あるが,その夫婦関係はかわらないのだろう。

『心臓』オリーヴは病院の集中治療室で目が覚める。心臓発作だった。通いのヘルパー介護で自宅で過ごすも一人の時に転倒して,老人ホームに入る。「大統領になったオレンジ色の髪の怪人」の時代です。♪私も玄関前で転んで「このまま死ぬかなあ」と思ったことがある。

『友人』老人ホームでのオリーヴは,仲間を作れない。最初はひどいあだ名をつけていたイザベル・デグノーとだんだんに打ち解けて,支え合うような友人になった。オリーヴは終わろうとしていることを感じながら,「自分自身が気に入らない」「こんなこと,いまさら思っても,しょうがない」と。そしてタイプライターで「自分がどんな人間だったのか,手がかりさえもない。正直なところ,何ひとつわからない」と書いた。♪何ものでなくても,生きてそして死んでいけるだろうと思う。イザベルは『目覚めの季節 エイミーとイザベル」の人物らしい。