壊れかけたメモリーの外部記憶

読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

謎のクィン氏 アガサ・クリスティー

謎のクィン氏 アガサ・クリスティー

早川書房  電子書籍

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どこからともなく現われては,love affairを解決して,また姿を消すハーリ・クィン。解決というより,登場人物たちが不幸な結末にならないよう,救済の方向を示唆します。ミステリーというよりは,大人のおとぎ話のような幻想的な雰囲気です。ミステリーとしての辻褄は合っているけれど,舞台設定や登場人物の顔合わせは現実的ではありません。短編を読み進むにつれて,クィン氏の存在自体があいまいな形になっていきます。

 

読み始めは戸惑いましたが,クィン氏の超自然的な存在を受け入れれば,あとは一気に読み進められました。この作品群が描かれたのは1930年よりも前で,前世紀末の神秘主義的な雰囲気が残っていたのかなあと。ただ物語の小道具としてたくさん出てくる音楽や絵画や文学は,あまりなじみのないものが多くて,読み手の教養が試されている感じもします。

 

ハヤカワのクリスティー文庫(電子版)のバーゲンセールで読みたい本が半額以下ならとりあえず買っておきます。クリスティーのどの作品が未読なのか,この歳になるともうわかりません。ポアロ,マープル,トミー&タペンスは本を読んだのかドラマを見たのか,見覚えのある題名ばかりです。でも『謎のクィン氏』を読むのはたぶん初めてです。この印象的な話を過去に読んでいたら,絶対に忘れていないと思います。「サタースウェイト氏」の名前は忘れそう。クィンが姿を現すときには,その場に必ず居るクィン氏の代理人のような裕福な,芸術に造詣が深い,他人の人生ドラマを観察するのが大好きな老人。

 

以下はネタバレのメモ。

 

晦日の嵐の夜,ロイストン荘での集まりに突然「クィン氏登場」。車の故障で雨宿りに来たという。十年前の自殺の理由を探り,こわれそうな関係を救った。

♪「嵐の館に車の故障の理由で突然現れる探偵」ってどこかのミステリーで使われていた。♪

 

「窓ガラスに映る影」の幽霊がでるという,グリーンウェイズ荘の行き止まりの秘密の庭で射殺された男女。事件後に突然訪ねてきたクィン氏が状況から犯人とされた女性を救ったばかりか,新しい関係を後押しした。

 

「〈鈴と道化服〉亭奇聞」:サタースウェイト氏は荒野の真ん中でパンクして,偶然立ち寄った「鈴と道化服」亭で,宿泊していたクィン氏に偶然出会う。三か月前の謎の失踪事件から,大きな盗難事件に行き着く。

 

殺人事件の法廷で有罪判決を受けた若い男だが,サタースウェイト氏はその判決に疑義がある。偶然立ち寄ったレストランで出会ったクィン氏と話しているうちに,ハウスメイドが事件直後にカナダに行ったことに不自然さを感じ,バンフまで証言をとりに行ったサタースウェイト氏。ハウスメイドの見た「空のしるし」がアリバイトリックを破るカギになる。

♪イギリスの鉄道の時刻は正確なのだろうか? 彼女の新しい働き口のバンフの大きなホテルって,バンフスプリングスかな。♪

 

冬をモンテ・カルロで過ごすサタースウェイト氏は旧知の伯爵夫人と出会う。事件はまだ起きていないようなのに,突然現れたクィン氏。ルーレットを回すクルピエの間違いに,サタースウェイト氏はしぶしぶ伯爵夫人に勝ちを譲った。そのあとにクィン氏の導きで「クルピエの真情」を知ることになる…

♪いやいや最後にもうひとひねり,一筋縄ではいかないクリスティーの結末です。背景に世界恐慌があるかも♪

 

69歳になったサタースウェイト氏はスペインの島で休暇を過ごしながら,自らの老いを感じている(ちょうど私も同じ歳で同じ思いなのです…)。ホテルの先にある断崖絶壁の家ラ・パズの庭園で出会った男は,道化師の服を着た男を見たという。余命半年という男と,その家ラ・パズで出会った女。ドラマチックでロマンチックな過去をたどり二人を救ったのはサタースウェイト氏だった。最後にクィン氏に出会うが,彼は行き止まりの絶壁に向かう道を海に向かっていった。自らを死者の代弁者だというクィン氏は,「海から来た男」なのだろう。

 

カンヌで過ごすサタースウェイト氏の知り合いのレディー・ストランリーに,闇の声が聞こえるという娘のマージョリーの様子を,イギリスで見てきてほしいと頼まれる。帰りの列車の中でクィン氏に出会う。娘のマージョリーは「お前は私のものを奪った。殺してやる。」と実際に危害を加えられた。霊媒師を呼んだ降霊会で,海難事故で亡くなったレディー・ストランリーの姉のビアトリスが現われ本人にしか分からない質問に答えた。そのあとに起こるレディー・ストランリーの死と年老いたアリス・クレイトンの死。「これでよかったのかもしれない」とサタースウェイト氏。

 

コベントガーデンのオペラハウスで偶然クィン氏と出会いボックス席で道化師(パリアッチ)を観劇中,「ヘレンの顔」を持つ美しい女性を見かけた。けんかに巻き込まれそうなその女性ジリアン・ウエストと知り合い,その命を助けることになる。

♪オペラの声の共振でガラスを割る設定はあやしいが♪

 

チャーンリー卿が自殺した部屋を描いたらしい「死んだ道化役者」という絵画を購入したサタースウェイト氏は,二人の女性からその絵を譲るように頼まれる。クィン氏と共に自殺に偽装した殺人事件のトリックを見破って,残された母子の将来を救う。

 

降霊会でクィン氏からメッセージがありレイデル荘に向かったサタースウェイト氏は,「翼の折れた鳥」のような魅力or魔力を持った女性メイベル・アンズリーに会う。森の中でクィン氏らしい人物を見かけたということで,事件を予感した。彼女の自殺を信じられないサタースウェイト氏は,犯人を突き止める。メイベルを救えなかったと嘆くサタースウェイト氏に,クィン氏は「たぶん死は最大の不幸ではありません」という。

 

侯爵夫人に連れられてのコルシカ島での不本意な休暇で,彼女の親族の女性ネオーミ・カールトンに出会う。ネオーミの恋人は宝石窃盗の罪で投獄されている。ネオーミのいう「世界の果て」の行き止まりの道でクィン氏を見かける。雪に降られて駆け込んだ安食堂には,女優とその一行がいて,女優は盗まれたオパールの話をするが,その話の間にオパールがみつかる。クィン氏は世界の果てに向かう。

 

ロシアからの亡命者であるデンマン夫人に好奇心をかきたてられて,サタースウェイト氏はアシュミード荘を訪れる。庭園の「道化師の小径」でクィン氏に出会い,小径の終わりがゴミ捨て場になっていることを知る。ロンドンからオラノフ大公が連れて来たプロのダンサーの怪我で仮面舞踏会の役をデンマン夫妻と客たちが引き受けることになった。上演中に姿が見えなくなったデンマン夫人は,小径の先で…。二つの愛の間で選択を迫られた時,第三の選択は死なのか,死は究極の救済なのか…クィン氏は姿を消した。