壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

小説以外

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小説以外 恩田陸
新潮社 2005年 1500円

読んだ作品は十指に満たず、私は恩田ファンとはいえませんが、物語が好きで好きでたまらないという恩田さんの気持ちが伝わってきてうれしくなりました。「物語作家の技法」を読んだ時と同じ気持ちです。紹介されている本を読みたくなって仕方がありません。でもここにメモし始めたらきりがないのでやめておきましょう。(でもひとつだけ、クリスチアナ・ブランドというイギリスのミステリー作家。今週図書館でさんざん迷って借りなかった本の作者でした。知っていたらなあ)

子どもの頃には世界は見た通りのものと思えず、“別の世界へ通じる入り口が身近にある”と信じていたそうですが、子供時代だったら多少なりと経験のあることでしょう。でも恩田さんは大人になったのちにも、異世界への入り口(の記憶)を感じるらしい。ヴィヴァルディの「春」は全編憂鬱で「冬」が怖いという感覚は常人のものとはかなり違うみたい。別世界への入り口を見分ける鋭敏な感性がああいう物語を生み出すようです。

恩田作品のいくつかに私が感じる違和感は、作者自身が意図した「解決しない」という手法である事を改めて認識しました。私の大好きな1960年代のTVドラマ、プリズナーNo6のリメイクを考える話がありましたが、恩田さんだったら、日本を舞台に、いきなり見知らぬ田舎町に放り込まれた中年男性の不条理ドラマを、不定期に夜中のTVで放映するそうです。何も解決のないままそれっきり打ち切って、たまたま見てしまった視聴者が、いやな夢をみたり、フト思い出すというのが理想なんだそうです。あのわけのわからないプリズナーNo6をもっとわけのわからないものにするのが理想なんですか。論理性や整合性が苦手で三段論法が理解できないというのは、恩田さんの一種のテレなのかもしれませんね。

今までに読んだ本が時系列で並んでいる個人的な「記憶の図書館」のネーミングはすてきです。このブログはまさにその目的で始めたものでした。「記憶の図書館」というブログ名を思いつかなかった私は、恩田さんをとてもねたましく思いました。“記憶の中の図書館には、自分のイメージ通りに作り変えた本が並んでいる”なんて話を聞くと、もう恩田ファンになりそうです。でもファンになるとコンプリートしたくなるので、めったなことはできません。