壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

イスタンブール 思い出とこの町

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イスタンブール 思い出とこの町 オルハン・パムク
和久井路子訳 藤原書店 2007年 3600円

トルコと言えば、トルコ石か、ナルニアエドマンドが食べたTurkish Delightを連想し、行ったことはないけれど、イスタンブールと言えばトプカプ宮殿の美しいタイルしか思い浮かばず、オスマントルコの歴史も知らず、イスラムという言葉しか知らない私にとって、モノクロの写真も独特な語り口もヒュズン(トルコ語で憂愁)という言葉にも慣れずに、すんなりとは読めなかった。自己の確立がまだできない立ち位置のはっきりしない青年期を、西と東の狭間にあってどちらの立ち位置にも決められない町に無理に重ね合わせようとしたためか。センテンスの長い、日本語とは思えないような語順の文章を、すぐに理解できなかったためか。

著者の記憶の中にある都市の風景は、掲載されたモノクロ写真のように動きが停止したままで、すべてが現実なのかどうかもわからず、現在のイスタンブールを全く知らないので、比較もできない。崩壊した文化の遺産がそのままの形で隣に存在する風景は憂鬱であろうことは容易にわかるが、都市全体を覆う憂愁とそれに愛着をもつ著者の心情をとらえるのに時間がかかった。観光客の視点で、旅行案内のようなものを少し期待したのが大きな間違いだった。

やむを得ずまたは自ら、長年築いてきた文化を捨て、近代化という名前の西欧化に向かわざるを得なかった地域は世界中にあり、そこの社会とそこに住む人々はそれぞれに異なった憂愁を抱くのだろう。イスタンブールの町を覆う憂愁が著者の成長過程にどんな影響を及ぼしたのかは、この人の別の作品を読んで見なければならない。

いったん読み始めた本を途中でやめるのは寝覚めが悪いうえ、特に図書館の本は期限があるので、たいていは最後まで読む。2006年にノーベル文学賞を受賞したトルコ人作家のこの本、年末から読み始めて最初の数章で挫折しかかり、数冊の本と並行して読みながら、なんとか最後までたどり着いた。後半はずいぶん面白くて続けて読めた。

年齢とともに頭の切り替えが遅くなったので、慌ただしい読み方しないほうがいいみたいです。図書館で年末年始に、欲張って、あまりにたくさん厚い本を借りすぎました。
今年の目標は【ゆっくり味わって本を読む】【図書館の利用は計画的に、借りすぎに注意しましょう。】ついでだから、【早寝早起き】も。