マングェルの「読書の歴史 あるいは読者の歴史」は、切り口のユニークさと薀蓄に満ちた素晴らしく面白い本でした。本書もまたすごく面白い。本好き、図書館好きにはたまりません。
稀代の読書家マングェルがフランスの田舎の司祭館を改修して建てたという書斎には三万冊の蔵書があるそうで、全編が本への愛着に溢れています。原題は『夜の図書館』といい、いわゆるリアルな図書館とは一味違う、書籍をめぐる闇や影の部分が多く語られています。マングェルの本は取り上げる題材がかなり偏っていて、その偏りがマングェルの主張でもあり、魅力でもあります。
『空間としての図書館』増殖する書籍をどうするか。捨てるか、マイクロフィルムか、電子化か。無限に増殖する図書館は世界そのものである。
『権力としての図書館』人間に人権を与える場であり、支配者に見かけの権威を与える場である。文化貢献か、売名か、税金対策か。
『影の図書館』蔵書選択の裏にある排除された本。粛清された蔵書、1970年代の南米軍事政権、アステカの侵略者たち。消滅した図書館、存在を許されなかった図書館。バーチャルライブラリの自由。
『形体としての図書館』建造物としての図書館。丸いか四角いか、理想の形。
『偶然の図書館』骨董市の古本。敦煌の洞窟に集められた本。
『仕事場としての書斎』作家の書斎。自著は一冊もないボルヘスの簡素な書斎。
『心のあり方としての図書館』個人蔵書の分類の奇妙さは連想によるつながり。
『孤島の図書館』ロビンソン・クルーソーの蔵書は聖書以外になんだったのか。本を読む人読まない人。
『忘れられた本たち』自分の蔵書の忘却。忘却を強いられた本。
『帰る場所としての図書館』すべてを内包する図書館。「存在するすべて、存在したすべて、存在するであろうすべて、地上、海中、天空のはるかかなたすべてを」