壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

夜の声  スティーヴン・ミルハウザー

夜の声  スティーヴン・ミルハウザー

柴田元幸 訳  白水社   図書館本

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『ホーム・ラン』に続く短編集。8つの作品はどれもミルハウザーとしか言いようがない。図書館の返却期限が今日までなので急いで読んだことが残念。メモだけ取っておこう。

 

ラプンツェル ミルハウザーの語り直しはディズニーのそれより濃厚かつ過剰だ。ラプンツェルの長い三つ編みの髪はまるで別の生き物のようで,髪を切った後の彼女は明らかに人格が変わり強くなった。

♪それまでは髪に活力を奪われていたのか,それとも“母は強し”か。

「私たちの町の幽霊」 幽霊について多数の目撃証言と仮説が語られる。

♪読んでいるうちに町の住民の認知の歪みかもと思わせられ,さらに幽霊は我々なのだ,幽霊は居てもいなくても同じなのだ,と説得されてしまった。

「妻と泥棒」 階下に泥棒の気配を感じた妻は,夫の眠りを妨げることを回避したいがために,過剰な想像をして,さらにその想像に振り回されて行動に出るのだ…。

♪つい先日,夜中に階下で音がしてびっくりしたんだけれど,寝る前にロボット掃除機ONにしたんだっけ。

「マーメイド・フィーバー」 人魚の遺体が打ち上げられた町でのフィーバーぶり。

♪これはありそうな話で,人魚で町おこしとかしそう。マーメード水着なんて通販で買えるし。

「近日開店」 ものすごいスピードで開発される建設ラッシュの町の現実を越えた発展。

♪シム・シティ―並みの速さだ。

「場所」 町にある“場所”は,ありきたりで普通で,皆が行ったことはあるけれどなんと説明していいのかわからない。

♪なんなの?

アメリカン・トールテール」 アメリカの法螺話であるポール・バニアンの語り直し。

アメリカの法螺話はリップヴァンウインクルしか知らない。ポール・バニアンの元ネタを知らないので面白さがイマイチわからないけれど,日本の法螺話でいえば,三年寝太郎ダイダラボッチを突き交ぜたようなものか,いや違うか。

「夜の声」 旧約聖書のサムエル,サムエルの話を信じる少年,かつて少年だった老作家の三人三様の不眠の原因は自分を呼ぶかもしれない「夜の声」。

♪これも元ネタを知らないけれど,頭の中一杯の想像で不眠に苦しむ有様は面白い。