無貌の神 恒川光太郎
角川文庫 Kindle unlimited
読み放題で見つけた、バラエティに富んだ六編の短編集。恒川さんの短編は、確かな語り口が読者を一気にその世界に引き込みます。映像が湧き上がってくるような筆致です。〈捕われたもの〉という一貫したテーマを持つダークなファンタジーやソフトホラーでした。
私はこの平和な日本に暮らし、戦争の恐怖もなく、捕われた暮らしをしていないのかもしれません。でも日常のしがらみの中で、自分自身を縛っている諸々のことに窮屈な思いをしている自分を感じることがあります。その現実を一瞬忘れさせてくれ、しがらみを解き放ってくれるのがファンタジーです。特に最後の物語「カイムルとラートリー」は読後の後味がすばらしく、爽快なものでした。
以下は各話のメモです。
いつの世か、隔絶した集落に祀られた「無貌の神」は、人の病を癒すが人を喰う。住民らはこの異界からは逃げられない。
江戸末期、伊豆の流人島に差し入れられた天狗の面を被ったのだろうか、流刑人を虐めていた役人たちが成敗された「青天狗の乱」。
大正時代、男に捕らえられて人殺しをさせられた「死神と旅する女」は、歴史を変えるような誰を殺したのか。
長い刑務所暮らしの末に出所したが、此処は何処?私は誰?「十二月の悪魔」と戦いながら自分自身の中に囚われた男。
「廃墟団地の風人」は霊なのか、行き所のない身だが、寂しい少年との交流の末に自由を求めて旅立つ。
「カイムルとラートリー」は捕われた神獣と足の不自由な王女の物語。神話的な崇高ささえ感じられる美しさがある。