壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

南の子供が夜いくところ  恒川光太郎

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南の子供が夜いくところ 恒川光太郎
角川書店 2010年 1400円

どこかにあるような、それでいてどこにもないような、無国籍の南の島トロンバス(地図あり!)。たくさんの言い伝えと、素朴な呪術が今も生きる島に暮らす人々の連作短編です。海の神話もまた島の日常の隣にあって、現実と異界は、時間と空間を越えて境目なく溶け合っています。物語の舞台は様変わりしたけれど、恒川ワールドは古い日本から、西南諸島を越え、遥か南太平洋やインド洋まで広がっているのでしょうね。


『南の子供が夜いくところ』★女呪術師ユナに救われたタカシ少年は、少しずつ島の暮らしに溶け込んでいく。
『紫焔樹の島』★★島の聖域にある紫焔樹のそばで幼いユナはトイトイ様に出会う。
『十字路のピンクの廟』★ロブ少年にかけられた魔神の呪いを解くには・・。
『雲の眠る海』★★襲撃されたペライヤから逃げて、故郷を取り戻すため<大海蛇の一族>を探して大海原をさまようシシマウデさんのオデッセイア
『蛸漁師』★息子の死は事故だったのか?ヤニューがささやく。
『まどろみのティユルさん』★★土に埋まっているティユルさんは海賊だった男。その片腕のソノバはオンの出身。オンって穏?
『夜の果樹園』★フルーツ頭たちの棲む森で過ごした時間は、たった一日・・・。

いくつかは合理的に納まらない未完成な神話のような物語で、ゴーギャンの絵の呪術的な雰囲気を連想しました。恒川さんの文章はイメージを想起する力が強いのですが、本作では文章がますます短文になっていて、読みやすいけれどちょっと物足りませんでした。