壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

鹿の王 水底の橋 上橋菜穂子

鹿の王 水底の橋 上橋菜穂子

角川文庫  電子書籍

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鹿の王の上下巻を読んだのは,読書メーターの記録によればもう6年以上前でした。内容をすっかり忘れていました。読書メーターにしか記録していませんでした。

それによれば,

「ファンタジーというより、重厚な歴史小説を読んでいるような気がする。征服民と被征服民の複雑な緊張関係がベースとなって、さらにエピデミックが歴史を動かしていく有様が迫力を増す。黒狼病はコントロール出来るのか?ヴァンとユナの運命は?ホッサルとはどこで出会うのだろうか? ・・・・・早く下巻を貸して!!・・・・」

「下巻になってから更に強調されている医学ミステリ、エマージング・ウイルス、バイオテロのようなエピソードについ気を取られてしまいがちだが、この地球に棲む生命の物語として捉える事でもっと大きな物語が見えてくるようだ。読み終わる頃になってやっと、この異世界の地図と登場人物の相関が頭の中で整理されたが、もう歳なので地図や相関図を描いたりはしないな。」  ←描いたりしとけよ!自分    

前作の電子書籍に試し読み部分を読んだりしたが,あまり思い出せない。でも,本作はヴァンとユナたちの話ではなかったので,忘れていても問題ありませんでした。

 

身分違いの恋人であるホッサルとミラルの関係は,最後にやっと進展した。本筋は「医術」を取り巻く「政治」「文化」「宗教」「科学」であり,ファンタジー要素の少ない物語になっている。医術の部分が現代医学に矛盾の無いように書かれているので,医療行為とは何なのか,医療はどこまで踏み込むべきなのかというような現代的な問題を提起している。しかし,物語がおもしろくないわけではない。圧倒的な筆致により,ホッサルたちが政争に巻き込まれてどうなっていくのか一気に読み切った。異なる文化をつなぐのが,目に見えない水底の橋なのだろう。

 

アチルがアセチルサリチル酸? トツ(土毒)がボツリヌス? 香枝ノ病が血友病? 抗毒素とか血清とか,平仄が合いすぎていて,きっとオタワル医療の祖先に現代からタイムスリップした医者がいたんだな(笑)。

コロナの時代になって,それ以前には「遺伝子操作」を嫌った人たちも,何だか知らない間に遺伝子組み換えで作られたワクチンを打ち,遺伝子操作されハイブリドーマで作られたモノクロナール抗体のカクテルとかで治療されているのよ。この先,医療はどこまで神の領域に踏み込んでいくんだろうね。