深い疵 ネレ・ノイハウス
酒寄進一訳 創元推理文庫
ドイツミステリ、オリヴァー&ピア・シリーズの三作目は、文庫本500頁越えの大作です。オリヴァーとピアをはじめ警察のメンバーとは顔なじみになったのですが、相変わらず登場人物の多さとなじみのない人名に悩まされました。さらに、凝った叙述トリックが張り巡らされていて、面白かったけれど、読むのに疲れました。二作目までは、ストレートな感じのミステリだったのに、本作は複雑な筋運びで、プロの編集者のアドヴァイスがあったのでしょうか。読み終わって、冒頭に戻って読み返すと、ミスリードされているのがよくわかりました。家系図も???
アメリカ大統領顧問だった高齢のユダヤ人が処刑スタイルで殺され、被害者の腕には、ナチスの武装親衛隊だった刺青が残っていたという展開が、かなり早い段階で明らかになります。ホロコーストの被害者が実はナチスのメンバーだったというのか?今もドイツ人の中に残る深い疵があるという事は伝わってきますが、ドイツの歴史の暗部を扱う重い社会派ミステリなのかと思ったら、ちょっと違う。
犯行現場に残された謎の数字、被害者の友人である資産家の女性とその親族の愛憎劇、大戦前の東プロイセンの貴族の家系、主人公たちの出自の謎…… 盛りだくさんの謎解きミステリでした。最後には、手に汗握る古城でのアクション展開もあります。
貴族出身の主席警部オリヴァーはどこかおっとりしていて(ハニートラップされそうになるくらい)、ピアは恋人としあわせそうです。ピアとそりが合わないフランク警部が抱えている悩みは今後、あきらかになるのでしょうか。次作も楽しみです。