壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

霧と雪 マイケル・イネス

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霧と雪 マイケル・イネス
白須清美訳 原書房 2008年 2200円

サバテールの「物語作家の技法」で「ハムレット復讐せよ」が面白いときき、でもシェークスピアに詳しくないと楽しめないかもと、イネスには手を出さないでいました。
でも、新刊コーナーにもう三週間も読んでもらいたそうに並んでいました。で、初のマイケル・イネスです。

一族のパーティーが開かれるヨークシャーのベルライヴ修道院にタクシーで向かうのは、アーサー・フェリーマン。このミステリの書き手で、ローパー一族の一人です。屋敷として使われている修道院の周りはビール工場で廃墟の背景は派手なネオンサインとなかなか凝った舞台で、本格ミステリの雰囲気が盛り上がります。

バジル・ローパー準男爵を長として八人の一族郎党と、知り合いの医師、近所に住む二人の実業家が登場人物です。書き手のフェリーマンは「作家として家系図を出さないで説明したい」ということで、お決まりの家系図も人物紹介も載っていないので、登場人物を把握するのにずいぶんと時間がかかりました。いつもの通り家系図を作ってみたのに、「正確な親類関係は物語にほとんど関係ない」んだそうで、家系図は載せないでおきます。

このアーサー・フェリーマンは、アプルビイ警部に頼まれて捜査の手伝いをしてはその内情を従兄弟たちに話してしまったりするし、作家とは言いながらどこか曖昧な文章を書くのでどんな作家なのか疑問ですし、役割どころとしても、ワトソン医師なのか、シェパード医師なのか、疑わしいんですね。

若いアプルビイ警部の捜査方法が常軌を逸しているところはひどく可笑しいし、容疑者全員が名探偵気取りで推理合戦を展開するので、何が何だがごちゃごちゃだけれど面白い。さらに、アプルビい警部の解く真相に至っては、も~ありえなーい、と思うのは私だけ?

イネスが、読者と登場人物をおちょくっているような気がするのですが、そういうところも含めてすごく楽しめました。アプルビイ警部シリーズは次に何を読もうかしら。