壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

岸辺の旅 湯本香樹実

あいかわらず、静岡と東京を行ったりきたりです。三時間の高速バスの中では意外と読書がはかどりません。年とともに集中力が低下したらしいので、音の出る耳栓(iPod)を買ってみましたが、効果はイマイチ。



イメージ 1
岸辺の旅 湯本香樹実
文藝春秋 2010年 1200円

三年前に失踪した夫がある晩帰ってきた。その身は海の底で蟹に食われたという。その夫と一緒に、彼岸ともと此岸ともつかない場所を旅した。

この旅は、身近な人の死をどう受け止めるか、いう過程を象徴的に描いているのだろう。私の経験から言えば、不在の受容は単に時間の経過だけでは解決がつかない。これまでの人生を脳内で組み立てなおしてそれに整合性を与える作業も必要だし、区切りとなるような何かの祭祀もいるだろう。

新聞屋に住み込み、中華料理店で働き、タバコ農家にお世話になってという長い旅の後に、北の果ての海岸で写経した紙を燃やして、夫優介はあらためてあの世に旅立った。

読み終えた直後にはかなり感傷的になってしまった。しかし、何日もたってこの記事を書き始めたら、失踪した夫を理想化する過程も、魂の旅らしいがそれにしては夜逃げ風の様子も、なんだか気になる。