壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

幸せな秋の野原 エリザベス・ボウエン

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幸せな秋の野原 エリザベス・ボウエン
太田良子訳 ミネルヴァ書房 2005年 2500円

 

「あの薔薇を見てよ」に続くボウエン・ミステリ短編集です。しかし、第一集にはあったいわゆるミステリ作品は一編もありませんでした。読み飛ばしてしまうと何のことだか分らない話が多くて、登場人物同士の書かれていない関係、口には出さずに呑み込んでしまった台詞、そこから微かに浮かび上がる状況、そこがまさにミステリなのかもしれません。巻末の解説を読んでもまだ理解できないくらいです。

 

悪戦苦闘して読み返し、図書館の返却期限を超えてやっと読了しました。ボウエンの分りにくさはわりと好きです。人間心理に対する辛辣さと同時に、過ぎていくものへの愛惜がうつくしい風景描写に託して語られて、なかなか魅力的です。でも、こんなに時間がかかったのは、他の本と平行して読んでいたせいもあるけれど、訳文が直訳というか、逐語訳というか、こなれていない日本語にひっかかって立ち往生したためです。最近出たボウエンの翻訳5冊はすべて同じ訳者なので、少し残念。吉田健一訳で「日ざかり」が1952年に、阿部知二訳で「パリの家」が1977年に出ているそうですが、古すぎて図書館にもありません。読みたいなあ・・。

 

「親友」(The Confidante、1923)ペネロピはモリスに、従姉のヴェロニカに会えとしつこく薦める。ヴェロニカにはヴィクターという婚約者がいる。しかしヴィクターの事情をペネロピは誰よりも知っている。
となれば当然ペネロピの意図は・・

 

「脱落」(The Secession、 1926)ローマのペンションに滞在するミス・セルビーは誰かを待っている様子で、観光にも行かず眺めのいい窓からいつも外を見ている。そこで知り合ったミス・フェルプスは女らしい美しい女性だった。待ち人は来たけれど・・(フォースターの眺めのいい部屋フィレンツェのペンションだったかな)

 

「そしてチャールズと暮らした」(Joining Charles, 1929 )すでに赴任地へ旅立った夫のもとへこれから向かおうとする若妻。夫の実家で暮らすうちに夫チャールズの正体がだんだん見えてくる・・・

 

「バレエの先生」(The Dancing-Mistress,1929) ミス・ジェイムズは、ピアノ伴奏者のミス・ピールと一緒にあちこちのバレエ教室で教えていて、毎日疲れきっている。マージョリーという不器用な生徒に対する嫌悪が殺意の形で語られるが・・

 

「ワーキング・パーティー(The Working Party, 1929) 21歳のミセス・フィスクは近所の女性たちを招いてワーキング・パーティーを初めて開く。その緊張感が絶頂になったときになんと・・・一生懸命にレディーのように振舞ったのに、パニックになって

 

「相続ならず」(The Disinherited, 1934) 没落した地主階級の若い男女、新興住宅に住む若妻、住み込みの運転手は訳ありで・・。叔母の財産をあてにして暮らすダヴィナは別な生き方ができるのだろうか。

 

「彼女の大盤振舞い」(Her Table Spread, 1930) ミス・カフは女相続人。結婚して子供をもうけないと財産を受け継ぐことができないと、居候の親族はやきもきしている。でも彼女は25歳になってもまだ中味は夢見る少女。

 

「ラヴ・ストーリー一九三九」(A Love Story, 1939,1941) ホテルに滞在する二組のカップルと近所の母娘。戦時中ではあるけれど参戦していないアイルランドで、でも戦争は人々に影を落とす。

 

「夏の夜」(Summer Night, 1941) エマは夫と二人の娘と老いた叔母を残して、嘘をついてロビンソンに会いに行く。エマを待つロビンソンに来客があり、エマの帰りを待つ娘のひとりは母の行き先に不安を感じている。

 

「悪魔の恋人」(The Demon Lover, 1941) 唯一のホラー。かつて約束した恋人が数十年の時を経て迎えに来るのか。

 

「幸せな秋の野原」(The Happy Autumn Field, 1944) かつて美しい荘園屋敷で幸せだった家族の話と、空襲下のロンドンで昔の家族の記録を探す一人の女。いったいどんな関係があるのか、幻想小説風。

 

「蔦がとらえた階段」(Ivy Gripped Steps, 1941) 転地療養のために母の友人に預けられたギャヴィン少年。美しい未亡人リリアンに惹かれていく少年の行く末は・・(ボウエンの少年物はめずらしい)

 

「あの一日が闇の中に」(A Day in the Dark, 1965) 15歳の私は叔父の農園に滞在していた。叔父にいいつかった用事で訪ねたミス・バンデリーは年老いてはいるが、なかなかのやり手だった。十五歳の少女の心のうちの見透かして、ずいぶんと辛辣な言葉を投げかける。



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図書館本の返却期限も守れないほど読書のスピードが落ちたのに、実家からダンボール一杯の本を貰ってきました。読みたい本がたくさんあってうれしい~。 上段の十二国記は娘からの借り物ですが、下段のミステリは父からの貰い物です。「チャイルド44」もあります♪
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