壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

あの薔薇を見てよ  エリザベス・ボウエン

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あの薔薇を見てよ  エリザベス・ボウエン
太田良子訳 ミネルヴァ書房 2004年 2500円

「りんごのき」に関する小説を集めていてw、めにいさんのところでもう一冊見つけました。

エリザベス・ボウエンは、1899年ダブリン生まれの小説家。アングロアイリッシュの地主階級でしたが、それほど裕福ではなく、母を早くに亡くし幸福な少女時代をおくったとはいえません。寄宿女学校での生活、没落する階級、二度の戦争、そういうものが、美しい英国の田園を陰影のある風景にガラリと変えてしまうのでしょう。

語りはあくまで上品で冷静ですが、幻想、ミステリ、ホラー、のどれにも分類できないような話ばかり。読み始めても何の話だか理解するまでに時間がかかり、さらに謎は謎のままで終わってしまい、読み飛ばしてしまうと、何が謎だか分らない場合さえあります。 

でも、単なる怪談のように思える話も、もう一度ゆっくり読むとさりげないアイロニーとウイットを深く味わうことができるし、美しく語られる風景の中にそっと辛辣なものを忍ばせてあるのがわかるのです。そして謎が謎のままあることが余韻と感じられます(手ごわかったけど・・)。

「あの薔薇を見てよ」(Look at All Those Roses, 1941)
田舎道で車が故障し、薔薇が咲き誇る古い屋敷をやむを得ず訪れた男女。男は修理を依頼しに出かけ、女の方だけが残った。孤独に暮らす母娘との会話から見えてくるものとは・・。
♪やっぱりね~。 

アン・リーの店」(Ann Lee’s, 1924)
素晴らしい帽子を作ると評判のアン・リーの店を訪ねた若奥様二人は、誇り高い店主アンに圧倒される。
♪店を訪れた男はいったい何者なのか知りたくてたまらない。

「針箱」(The Needle case, 1934)
一家の期待の星である長男のアーサーが婚約者を連れてくるというので、急遽お針子が雇われた。彼女の針箱には小さな男の子の写真が入っている。
♪お~! なるほど! 

「泪よ、むなしい泪よ」(Tears, Idle Tears, 1941)
メソメソ泣いてばかりいる七歳の息子にうんざりして、母親は彼を公園に置いて出かけてしまった。それを見た若い娘は・・。
♪こういう母親の元では男の子はたいへんね。

「火喰い鳥」(The Cassowary, 1929)
母と二人の娘が空き屋敷に越してきた。下の娘には婚約者がいるが、長い間行方不明だという。
♪上の娘はてっきり・・・と思ったのに・・・。思いがけない結末。

「マリア」(Maria, 1934) 両親をなくし叔母夫婦に育てられているマリアを預かってくれる人がいない。
♪やっとのことで牧師館に預けられたマリアの、女の子らしい、手に負えない悪ガキぶりが可笑しい。

「チャリティー(Charity, 1926)
寄宿女学校に通うレイチェルが、休暇中に親友のチャリティーを家に招いた。
♪友達にどう思われるかがいちばんの関心事なのね。

「ザ・ジャングル」(The Jungle, 1929)
レイチェルは、今度は一つ年下のエリースと仲良くなりかけた。
♪型破りのエリースに惹かれるけれど、やっぱりまわりからどう思われるか気になるのね。

「告げ口」(Telling, 1929)
役立たずと思われ、誰からも相手にされないテリーは、ある重大な事をやってのけた。
♪“誰でもよかった”というような殺人の告白すら聞いてもらえないテリー・・。

「割引き品」(Reduced, 1935)
分不相応なくらい素晴らしい家庭教師を雇える理由を、吝嗇で節約家の夫をもつマイマが親友に喋った。
♪理由を聞いてぞっとし、さらにラストで納得。

「古い家の最後の夜」(The Last Night in the Old Home, 1934)
逼迫して古い屋敷を売らざるを得なくなった一家。
♪成人した息子たち娘たちの身勝手さと、最後の夜のわびしさが重なる。

「父がうたった歌」(Songs My Father Sang Me, 1944)
前の大戦でりりしい兵士だった父は、戦後には不遇の生活を送った。そんな父が歌っていた曲を娘は耳にして、幼かった日々の思い出を語る。
♪二つの大戦の間の時代を物語る味わい深い作品

「猫が跳ぶとき」(The Cat Jumps, 1934)
殺人事件のあった屋敷を捨て値で買い入れた夫婦は、合理的精神の持ち主。友人たちまで呼んで屋敷のお披露目をした。
♪だんだんに明かされる事件の残忍さ。追い詰められていく人々。コワーイけど、最後に笑った。皮肉と機知に富んだ作品。

「死せるメイベル」(Dead Mabelle, 1929)
堅物の銀行員がシネマ女優メイベルに惚れこんだ。彼女が無残な死を遂げたとき・・・
♪彼は人に言えないほどの衝撃を受けたのだろう、メイベルを追って幻想が広がる。

「少女の部屋」(The Little Girl’s Room, 1934)
血のつながらない孫であるジェラルディンを引き取った未亡人は、この少女を立派に育てようと決めた。
♪まわりの大人全員を敵だと思う少女の気持ちがみごと

「段取り」(Making Arrangements, 1925 )
男と出奔した妻から身の回り品を送って欲しいと頼まれた、段取りのよい男。さっそく手際よく荷造りをはじめるが・・
♪妻が残していったドレスが夫にからみつくように・・。でも予定時間内に荷造りを済ませたのだ。

「カミング・ホーム」(Coming Home, 1923)
ロザリンドの最愛の人は母親。学校から帰ってくると母親が留守にしていた。
♪子供らしい心の中の嵐が描かれる。

「手と手袋」(Hand in Glove, 1952)
両親を亡くした姉妹は、かつて裕福だった叔母を介添え人として社交界にデビューした。病気になった叔母を一室に閉じ込めて、叔母の豪華な衣装を内緒でリフォームし、必死に婚活。
♪怖いけど、罰が当たったのよね、たぶん。

「林檎の木」(The Apple Tree, 1934)
サイモンの幼な妻マイラは夜毎に悪夢にうなされる。そのためにサイモンまで心の調和を乱した。
♪マイラの寄宿女学校での体験は美しい恐怖。マイラは林檎の木にとりつかれていたのだ。

「幻のコー」(Mysterious Kôr, 1944)
空襲下で灯火制限しているロンドンの夜を歩く若い男女は、幻の都市「コー」を夢見るペピータと休暇中の兵士アーサー。
ペピータのルームメイトであるコーリーのかすかな優越と引け目が語られる。月光の中の架空都市は美しい。

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いままでに収集した「林檎の木」です。


残雪を読んだときに林檎の木が何を意味するのか分らなかったので収集してみました。ロマンテックなイメージも幽霊への連想もあるけれど、結局、残雪は理解不能でした。

他にも探してみました。「リンゴの木の栽培法と剪定法」は読む気にならないけれど、絵本や童話には幸福な林檎の木がたくさんありました。未読のものをメモしておきます。

「リンゴの木の上のおばあさん」 ミラ・ローベ
「リンゴの木」ミーラ・ローべ著 アンゲーリカ・カウフマン絵
「リンゴの木の下で」今江祥智著 長新太
「リンゴの木の下の宇宙船」ルイス・スロボトキン
「りんごのきにこぶたがなったら」アーノルド・ローベル著 アニタ・ローベル絵
「りんごのき」エドアルド・ぺチシカ著 ヘレナ・ズマトリーコバー絵

木ではないけれど、これも入れておきましょう。
「リンゴ畑のマーティン・ピピン」エリナー・ファージョン