壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

田舎の事件 倉阪鬼一郎

田舎の事件 倉阪鬼一郎

幻冬舎文庫 電子書籍

田舎のほのぼのとした出来事を期待して,軽く読めて笑えるものを選んだつもりだったが,かなりの毒が含まれていた。この著者に「ほのぼの」を期待したのは間違いだったのか。田舎を舞台にした事件で,警察も探偵も出てこないが,クライムノベルというほど大げさなものでもない。バカミスイヤミス? ジャンルはよくわからない。

田舎から都会に出て一旗揚げようとして,田舎へ戻らざるを得ない男たちが陥った状況が,ブラックに描かれている。田舎という地域の特殊性が男たちを犯罪に追い込んで,常軌を逸していく。地縁,血縁のつよい田舎の社会では,噂は一気に広がり,その息苦しさは充分想像がつく。狂気の描かれ方はかつての筒井康隆に通じるものがあった。

第五話「銀杏散る」で,村から東京に行く不便さを句点読点なしの超長文で語るところで笑えた。第四話「郷土作家」,第九話「赤魔」の校正者,第十三話「梅の小枝で」の俳人と,著者自身の経歴を思わせる話がある。著者は,プライバシー,デリカシー,ダイバーシティのない田舎を単にバカにしているのではない。田舎への郷愁と嫌悪の両方を描いているのではないだろうか。田舎の住人としては,そう思いたい。

 

この本,購入当時は50%ポイント還元だった。別の倉阪作品がサイトのお薦めに出てきたので,もう一冊読んでみようかな。