壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

犯罪  フェルディナント・フォン・シーラッハ

犯罪  フェルディナント・フォン・シーラッハ

酒寄進一訳  創元推理文庫  電子書籍

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現役の刑事弁護士が書いたミステリとして話題になったときに読み逃していた以来。物語の語りと筋運びが独特で,事実を淡々と報告しているように見えるが,罪を犯した,いや犯さざるを得なかった被告人たちの人物像が哀しみを伴いながら生き生きと描かれている。引き込まれて読み,感動をもって読み終えた。ドイツは多民族が暮らす複雑な社会だと強く感じた。難民や移民たちやそれを排斥するネオナチたちといった社会の歪みの中で起きる犯罪をシーラッハは克明に描いている。弱者たちの犯罪がどのように裁かれたのか,安堵を覚えるような物語もある。他の作品もぜひ読みたい。

 

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強盗に入った先で「タナタ氏の茶碗」を盗んだ男たちの結末

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レバノン人の犯罪一家の末っ子が兄たちをかばおうとするハリネズミ

東欧の内戦を逃れてきたイリーナとホームレスの恋人の愛は「幸運」だといっていいのか

難民キャンプで生まれたアッバスは恋人を手にかけたのか,防犯ビデオのサマータイム

ネオナチの男二人に絡まれて行った「正当防衛」が鮮やかすぎる

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大学生のパトリックがニコルに切りつけた理由は「愛情」

捨て子として厳しい人生を生きたエチオピアの男」の善行と銀行強盗