壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

恐怖  筒井康隆

恐怖  筒井康隆

文春文庫  電子書籍

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2001年頃の作品で,未読かと思い読み始めたが残念ながら既読だった。文化人たちが住んでいる閑静な住宅街の連続殺人事件。殺人事件の第一発見者の小説家村田勘市は相当なビビリらしく,自分が狙われているのではと妄想が妄想を呼んで半狂乱になる。

恐怖とは何かという哲学的問題を論じたり,ミステリ小説の筋を考えたりするのだが,すべては恐怖を忘れるための手段だ。殺人事件の謎解きは主眼ではなくミステリとしての面白さは少ない。

元妻としゃべる人形との掛け合いなどが面白く,テンポの良い饒舌文体で表現する恐怖と笑いが混在するドタバタは相変わらずうまい。でも若い頃のようなぶっ飛んだ展開にはならず,最後はいちおう現実の中に納まっていく。