壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

小説のように アリス・マンロー

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小説のように アリス・マンロー
小竹由美子著 新潮クレストブックス 2010年 2400円

なんでこんなに長い時間が過ぎたような深い感慨を抱くのでしょうか。マンローの繊細な短編を読むといつもそう思います。日常のふとした出来事から、それにいたるまでの長い人生が蘇ってきます。その過去はチクチクとした感触で、そこで味わう苦味も、人生にとっては重要な味付けの一つです。

『次元』 Dimensions: 夫に幼い三人の子供を殺された女性ドーリー。そんな方法でしか癒されないのかと心が痛いが、それでもいつか転機が来る。
『小説のように』 Fiction:過去に子持ち女に夫を奪われた音楽教師ジョイスは、現在の恵まれた暮らしの中で、突然過去に遭遇する。記憶の中にある過去と、現れた少女が小説の中で描く過去の食い違いの妙。(しかし、ジョイスとそのパートナーが開いたホームパーティーの客たちの関係には笑った。)
ウェンロック・エッジ』 Wenlock Edge:下宿をして大学に通う女の子。ルームメイトのニナの奔放さに対する複雑な思い。最後の意地悪はわからないでもない。
『深い穴』 Deep-Holes:幼いころ深い穴に落ちて怪我した息子は、大学生のころに音信不通となる。再会してあまりの変容ぶりに母サリーは戸惑うばかり。家族間のギクシャクがうまく描かれている。
『遊離基』 Free Radicals:夫を亡くして本人も余命を知る身のニータ。強盗に脅されて身を助けるために語ったこと。ルバーブの葉の毒は、本当はどうしたんだろう。
『顔』 Face:少年の顔の痣をからかったつもりはなかった少女。長い時間の後に再会したとき、その思いが明らかになる。
『女たち』 Some Women:死の床にある若い男をめぐって、妻、義母、マッサージ師の三人の女性が身勝手な主張をする。その姿を見つめる手伝いの少女の冷静さ。
『子供の遊び』 Child’s Play:夏休みのキャンプで知り合った二人の少女。その夏に起きた出来事が、長い時間の後に明らかになる怖さ。
『木』Wood:家具職人ロイの木に対する愛着。
『あまりに幸せ』 Too Much Happiness:実在のロシアの女性数学者をモデルにしたもの。死の前の数日間、過去がフラッシュバックする。(ソフィア・コワレフスカヤについては、高校時代に数学の先生に紹介されて自伝を読んだような気もするが、定かではない。)
(2011年3月読了)

既読のマンロー作品(既刊の単行本もこれだけ。短編作家なのでアンソロジーがあるかもしれない。)
『木星の月』
『イラクサ』
『林檎の木の下で』