壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

じじばばのるつぼ  群ようこ

じじばばのるつぼ  群ようこ 

新潮社  図書館本

f:id:retrospectively:20211002211647j:plain

還暦を過ぎもう少しで高齢者の仲間入りをするという筆者が,自戒を込めて,街中の老人たちの困った生態を描く爆笑エッセイらしい。笑えなかったのは,私が70の老人だからなのだろう。たしかに迷惑行為をする老人たちを目にすることはある。自分が老人なのに,「困った年寄りだなあ」と腹を立てることもある。高齢者だから,弱者だから,社会のルールを破っても許されるだろうと思っている老人たちもいるだろう。古い価値観に縛られたままで若い人たちを敵視する老人もいるだろう。老人たちの数か増えて幅を利かせていることに老人たち自身が気付かなければならない。私も充分に注意していこう。社会のルールからいつの間にか逸脱しているかもしれないのだ。

それにしても,本書で筆者のいう「じじばば」という括りは,優しくない。「じじばば」たちの迷惑行為をひたすら詳細に描写するのみで,同じ人間としての目線に欠けているのだ。若い頃から迷惑行為をする者は別としても,歳をとるにつれ老化現象で前頭葉の働きが悪くなって理性的,客観的に判断することができなくなるだろう。 身だしなみが不潔なのは寂しさから来るセルフネグレクトもあるかもしれない。筆者もそういうことはわかっている上で,老人たちの生態を面白おかしく書いているのだとは思う。でも,生老病死の苦しみを持つ同じ人間としての寛容さが感じられなかった。

コロナによって分断された社会では,他者に対する寛容さがどんどん少なくなっていく。近ごろはニュースを見るのも辛くてたまらないので,読書をする時間が増えた。でもときどき読後感のよくない本に出合ってしまう。それもまたしょうがないことではある。