『不死細胞ヒーラ』という書名で、一瞬オカルトサイエンスか何かと勘違いしましたが、あのHeLa細胞のことではないですか。60年も前に、ヒトの培養細胞株として初めて樹立されたHeLa細胞は、今でもよく使われている有名な細胞です。HeLaことHenrietta Lacksは1951年に子宮頸癌で亡くなっていますが、HeLa細胞は無限に増殖しています。
HeLaという名前が子宮癌組織を提供した女性の頭文字?だという程度の知識しかなく、どんな女性だったのだろうと読み始めたのですが、タバコ農婦である貧しい黒人女性ヘンリエッタの人生だけでなく、培養細胞の研究にかかわった科学者たちの物語、生命科学の進歩、医療における倫理問題など幅広いテーマを持ったノンフィクションで、勉強になる内容でした。専門的な内容も正確だと思います。
さらに、HeLa細胞がバイオ分野で巨万の利益を生み出しているのに、貧しくて医者にもかかれないヘンリエッタの遺族(特に次女デボラ)たちが、HeLa細胞をどう思っているのかという後半はユニークです。殆ど学校教育を受けていないデボラが、一歳の時に亡くなった母親の姿を求めて、著者の取材旅行に同行するドキュメンタリーのような部分は迫力がありました。