壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

イラクサ

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イラクサ アリス・マンロー 
Hateship, Friendship, Courtship, Loveship, Marriage 2001 Alice Munro
小竹由美子訳 新潮クレストブックス 2006年 2520円 

「木星の月」を読み、アリス・マンロー・カントリーといわれる世界にすっかり惹かれました。九つの短編集で、原書の題をもつ短編は「恋占い」と訳されています。ジョアンナが町の小さな洋装店でスーツを買う場面など、実に女性らしい視点が感じられます。何というきめ細かい描写でしょうか。全体の物語よりもまずこんな些細な点に引き込まれてしまいます。

「なぐさめ」でファンダメンタリズムとたたかう夫が亡くなったとき読んでいた「カンブリア紀の多細胞生命体の爆発的急増とか呼ばれている事象に関する古生物学の本」は、どれかな。それにしても、頑なな夫の遺志を実行するのはなかなか切ない。「家に伝わる家具」や「イラクサ」はマンローの自伝的な部分があるのかと思ってしまいます。

「恋占い」「浮橋」「家に伝わる家具」「なぐさめ」「イラクサ」「ポスト・アンド・ビーム」「記憶に残っていること」「クィーニー」「クマが山を越えてきた」どれを読んでも飽きる事がありません。最初の「恋占い」と最後の「クマが山を越えてきた」は皮肉な結末をもつ作品で、映画化されるそうです。マンローの主題の普遍性というのはよく言われることですが、そこには人生の本質のようなものがあるのでしょうか。

普遍性といえば、と強引につなげるのですが、「冬のソナタ」にも一種の普遍性があると思うのです。
(私は「冬ソナ」のちょっと歪んだファンなので、一回この画像を載せたかったんです。)イメージ 2
冬のソナタ」のスペイン語字幕をあるところで見つけました。そして最終話のラストシーンは、現在二万近いアクセスがありました。コメントもたくさんついていて、スペイン語翻訳ソフトで読んでしまいました。「イノセントでディファレントで、このテレノベラはとってもいい」、なんてことがたくさん書いてありました。パナマ駐在の方のブログで、2007年3月からパナマTVで、「Sonata de invierno」 として放映が始まったとか。もともとラテンアメリカにはテレノベラという(英語圏でのソープオペラかな)のがとても盛んらしいのです。(トラックバック機能がわからなくてすみません。)アジア圏、英語圏だけでなく、スペイン語圏にも広がっていくといいですね。全くちがう文化的背景でも、普遍的なものはあると思うのです。

また、アリス・マンローの本に戻るのですが、ゆっくり味わいたいもののはずなのに、いつもの速読の癖であっという間に読んでしまう事があります。そういう時は、もう一度読み返します。この本のいくつかの短編も、図書館に返す前に読み返しました。マンローはヴァンクーヴァーではあまり居心地がよさそうではないですが、私は「ポスト・アンド・ビーム」「記憶に残っていること」で物語の舞台となっているヴァンクーヴァーの地名がなつかしく、アリス・マンローがさらに読みたくなってしまいました。

クレストブックシリーズの最新刊「林檎の木の下で」は、2006年のThe View from Castle Rockの訳らしく、これが最後の作品かもしれないというマンローの指摘があったそうで(wikipedia)、ずっと貸し出し中だった図書館の本を、やっぱり予約しました。貸し出し中の本を予約するのは初めてです。どれくらい待つのかな。

マンローは寡作で、短編集ばかり15冊ほどで、邦訳は三冊しかありません。