壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

青い野を歩く クレア・キーガン

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青い野を歩く クレア・キーガン
岩本正恵訳 白水社イクスリブリス 2009年 2200円

アイルランド女性作家の短編集。「イクス・リブリス」シリーズの『イエメンで鮭釣りを』が面白かったので、このシリーズでいくつか海外文学を追いかけましょう。

アイルランドの田舎でそれぞれに孤独な人たちを繊細な筆使いで描いた作品。女性特有の視点が面白く、また悲哀とユーモアの両方を繊細に表現する、こういう文学の香気高いものをたまに読むのもいいなあ。『森番の娘』『波打ち際で』『クイックン・ツリーの夜』がgood。

『別れの贈りもの』
渡米する末娘とその家族との別れ。父親の理不尽な横暴さが段々に明らかとなる。
『青い野を歩く』
結婚式を行う神父は花嫁との過去があった。花嫁の真珠のネックレスが切れ、神父が早春の夜の青い野を歩く。その情景だけが、こらえ切れない思いを言外に伝える。
『長く苦しい死』
ハインリヒ・ベルのかつての別荘を借りている女性作家。家の見学に来た無神経男への期待外れに、小説の中で男に復讐する。
『褐色の馬』
出て行った女は褐色の馬を飼っていた。怒って馬を道に放した男の後悔はむなしい。
『森番の娘』
森番夫婦には三人の子供がいるが、末の娘は誰の子なのか。夫は借金の返済のことだけしか考えず、妻は冷静に家を出ようとしている。娘に盗んだ犬をプレゼントする夫、村人に物語をかたる妻、すべてが灰燼に帰するような出来事が起きる。
『波打ち際で』
母と継父の元で休暇を過ごす青年。富豪の継父の横暴さに逆らえない青年は、祖母の波打ち際でのエピソードを思い出す。自分にはどうしようもない人生の波打ち際で青年もまた踏み出すことができない。
『降伏』
巡査部長は婚約者に別れを告げられた。結婚に踏み出せない男は、結局降伏するのだろうけれど。
『クイックン・ツリーの夜』
アイルランドの迷信と孤独な男女の物語。雌山羊と暮らす男と、子供を亡くした女。迷信や魔法が色濃いアイルランドの田舎では、こんなことも起こるかもしれない。